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一晩だけ泊めてやって、朝が明けたら役所に連れて行こう。そう思った松であったが、焼け野原にプレハブを建てただけの役所は、食料配給や戦後の戸籍確認に手一杯で、戦災孤児を保護する機能まで行き届かないことも知っていた。
街には、この子のような痩せこけた子どもたちが、下水道や神社の軒下に住んでいる。
松は思案しながらも、男の子が起きたら食べさせようと、今日交換した米と貴重な味噌、自分が食べ残した芋を使って雑炊を作り始めていた。
雑炊の香りに気がついたのか、男の子が目を覚ました。
「あんた、大丈夫かね?」
松の問いかけに男の子は起き上がり、キョトンとした顔をして自分の手足を見た。
「名前は? お父さんとお母さんはおらんのかね?」
松の再度の問いかけにも、男の子は答えない。
松は木杓子で欠けた茶碗に芋雑炊を掬って、男の子に渡した。
「今日はこれを食べておやすみ。明日になったら、小倉にできたメリケンさんの教会に行くとええ。あそこなら、あんたみたいな子を、たくさん保護しちょるって聞いたわ」
男の子は両手で茶碗を受け取り、大きな丸い愛らしい目を輝かせて、雑炊の表面に口をつけてすする。
「ほれほれ、箸を使わんと」
松は男の子に、箸を渡す。
男の子は受け取り、握り箸で雑炊をかき込んだ。
よほどお腹をすかせていたのであろう。松は一心不乱に雑炊を食べる男の子に、育ち盛りの頃の我が子たちの姿を重ね合わせた。
ビルマで虜囚となっている長男にも、食べさせられたらと思いながら。
男の子は何度か無言でからになった茶碗を突き出し、お代わりを食べ、鍋がからになったらまたボロ布団をかぶって眠ってしまった。
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