ツバメのただいま

7/9
前へ
/9ページ
次へ
「おっ母の息子はどこにおるんね?」  ある日の夕餉(ゆうげ)のときに、つば九郎は無邪気に聞いた。 「ビルマっちゅう南方の国におる」 「いつ帰ってくると?」 「分からん。何でもイギリスさんがイケずして、返してくれんらしい」 「南方かあ。ほしたら、オイラが行って、あんちゃんを連れ帰るわ」 「つば九郎は優しい子じゃねえ。でも、あんたまでおらんようになったら、私は泣いてしまうよ」  つば九郎は考え込み、そのまま無言で、夕餉の茹でとうもろこしを啄んだ(ついばんだ)。 「秋の収穫が終わったら……」  つば九郎がつぶやく。 「収穫が終わったら何ね?」 「いや、なんもない。収穫が終わったら、たくさん闇屋に野菜を持ってけるねって」  つば九郎の笑顔に釣り込まれて、松も顔がほころんだ。  息子の話をしても涙が出なかったことは、これが初めてであった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加