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「おっ母の息子はどこにおるんね?」
ある日の夕餉のときに、つば九郎は無邪気に聞いた。
「ビルマっちゅう南方の国におる」
「いつ帰ってくると?」
「分からん。何でもイギリスさんがイケずして、返してくれんらしい」
「南方かあ。ほしたら、オイラが行って、あんちゃんを連れ帰るわ」
「つば九郎は優しい子じゃねえ。でも、あんたまでおらんようになったら、私は泣いてしまうよ」
つば九郎は考え込み、そのまま無言で、夕餉の茹でとうもろこしを啄んだ。
「秋の収穫が終わったら……」
つば九郎がつぶやく。
「収穫が終わったら何ね?」
「いや、なんもない。収穫が終わったら、たくさん闇屋に野菜を持ってけるねって」
つば九郎の笑顔に釣り込まれて、松も顔がほころんだ。
息子の話をしても涙が出なかったことは、これが初めてであった。
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