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秋の収穫は、つば九郎のおかげで多かった。
闇屋に卸しても米も味噌もたくさん交換できて、お金までもらえた。
親子ふたりでひと冬越すには充分だ。
松はいつの間にか、つば九郎を我が子のように思い始めていた。
役所に行って、つば九郎を養子にしよう。そして春には学校に行かせて、大きくなったら市街地に残っている土地に家を建てよう。
松は、焼け野原だった市街地にきちんとした家が建ち始め、駅に蒸気機関車が入っていく光景を、住んでいる山から見ながら思う。
この子が大人になる頃には、みんなお腹いっぱいご飯が食べられる世の中になっているに違いない。
そして長男も無事に帰っていて、わたしは孫と遊びながら静かに暮らせる時代になると。
その夜、つば九郎は夕餉を終えたあと、神妙な顔をして松に話しかけた。
「おっ母あ。オイラ、南にいかなくちゃならないんだ」
「なんね、いきなり」
「オイラ、本当はツバメなんだ。オイラのおっ父とおっ母はここの軒下に巣を作ってオイラを産んだんだ」
松の顔に困惑の表情が現れた。
「オイラ、旅立つよ。でも、安心して。来年の春には帰ってくるから。ついでに、ビルマをまわって、あんちゃんをを連れ帰る」
「つば九郎、なにてんご言うてからに……」
松は冗談にしようと声に出したが、つば九郎の気迫に押され、最後は言葉にならなかった。
「おっ母あ。行ってきます」
松は、長男が出征した時の言葉を思い出し、涙を流す。
つば九郎はツバメの姿になり、開け放してあった窓から飛び立っていった。
「つば九郎〜~」
松は飛び去ったツバメの姿に叫び、泣きじゃくった。
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