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「おれ、好きだよ、夜のこと」
高校最後の夏、そう小さな声で呟いた宇海は、泣いていた。思えば、いつも明朗快活だった宇海が泣いたのは、これが最初で最後だった。
夜は、その「好き」に友愛以上のものが含まれていたことを知っていた。時折、ふと触れた宇海の男にしては華奢な腕の震えが、なんとなしに物語っていた。──それでも、知らない振りにしていたのに。
「僕も宇海こと好きに決まってる。1番の友達なんだから」
同性同士なんて、と思った。いつか自分も宇海も、女性と結婚して家庭を築く。
だから、あえて「友達」を強調した。
宇海はくしゃりと笑った。その頬を伝った一粒の雫には、気が付かない振りをした。雫は眩しい太陽の光に焼かれ、すぐに消えた。
そして高校卒業以来、大学進学した夜と、地元で就職した宇海は会っていない。近すぎた距離は、呆気なく離れた。
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