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「新しく家族となる二人に、心から祝福を!」
二人の共通の友人であるらしい男の、どこか茶化した祝いの挨拶で場は祝福と喜びのムードに満ちる。夜一人を置いて。
式はつつがなく進行していた。たとえ男同士でも、一生を添い遂げるということは可能なんだと初めて知った。この場の祝福のムードが全てを示している。正式に籍を入れることはまだ難しいが、宇海とあの男が名実ともに家族となる日もそう遠くないと誰もが信じていた。
あの男の隣にいる宇海は、全く知らない男だった。あんなに愛しそうに笑うなんて、あんなに蕩けた瞳をするなんて、知らなかった。……いや、あの夏の夜は、知ろうともしなかった。宇海と、同性と結ばれる未来なんて頭にはこれっぽちも存在していなかったのだ。
──あのとき、頷いていれば。自分も好きだと伝えていれば。
たらればの話なんて、自分らしくない。けれど、そう思わずにはいられなかった。
新しい宇海を、知っていけたかもしれない。変わっていく宇海を、ずっと側で見ていられたのかもしれない。……今横に立っているのは自分だったのかもしれない。
もし、もし、そんなことばかり頭によぎる。宇海の笑顔を見る度、頭がおかしくなりそうなくらい。
──もし、あの夏に戻れるのならば。もう、絶対に間違えないから。だから、もう一回だけやり直したい。
もう一回、あの夏で。そんな馬鹿なことを。
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