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家庭科室に向かったら、嘉屋さんが鍵を閉めるところだった。
「作業終わり?」
「あ、うん。レイアウトも決めたから、あとは文章打ち込んで印刷するだけ。野坂くんもレシピ決めて原稿書いてね」
嘉屋さんは、周りを見て、小声で言った。
「どうだった、ドレス?」
嘉屋さんは、学校でただひとり、ボクがスカートはくの大好きだって知っている。演劇部を手伝うことを決めた時も、調理クラブのみんなを何となく説得してくれた。ありがたい友人だ。
「ドレスはまだなんだ、でも稽古用のスカートもすごく素敵で……あっそうだ!」
嘉屋さんに、走り方を相談した。試しに廊下を走ってみたら、やっぱり「姫っぽくない」って言われた。
「お姫様がバタバタ足音させるのは、変だと思う。つま先で走ってみたら?」
「つま先かあ」
試しに走ってみたら、今度は泥棒みたいって言われたし、先生に見つかって怒られた。
※※※
「お姫様らしい演技ねえ」
おじさんは、ボクの試作品・ホッキ貝のレタス炒めを食べながら、話を聞いてくれた。
「お前、自撮りする時も、顔の向きとかポーズとか、映える角度に身体を傾けたりするだろう。それと同じだ。ドレスの後ろ姿が映えるように、って考えてみろ」
「あー」
ドレス姿が映えるように。そうか! 急に納得できた。さすがおじさん!
「あと、この炒め物うまい。海産物は中華に合う」
「ありがとう!」
パネルに出すの、コレにしよう。
「こんな感じで、どうだ」
「わあ!」
おじさんが、布団のシーツをドレスっぽくしてくれた。引き摺らないように、スカートをつまんで持ち上げる。
「腕を広げると、肩の筋肉が目立つ。肩を落として、肘を身体につけてみろ」
「肘を身体に……?」
「そのまま」
おじさんがガラケーで後ろ姿の写真を撮ってくれた。最初の写真と比べる。ちょっとだけお姫様に近づいた気がする。
「あ! 部長さんが言ってた「脇締めて」って、コレのことか!」
「なんだ、もう言われてたのか」
「あ、じゃあ…ええと、背筋伸ばして、顎引いて…」
「撮るぞ」
「…わあ!」
ぐっとお姫様っぽくなった。やった! 部長さんすごい!
「おじさん、今度ボクのスマホで撮ってよ」
居間からボクの部屋まで走る。
「下の階の人の迷惑にならんようにな」
嘉屋さんアドバイスの、つま先走りをしてみた。音はしない。でも、さっきの姿勢で走るとバランスが取れなくて怖い。倒れそう。って思ってたらバンって倒れた。下の階の人、ごめんなさい!
「ドレスって、大変…!」
でも、ボクがドレス着れるチャンスなんだ。がんばる!
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