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「わあ…!」
手芸部の人たちが、お姫様のドレスを持ってきた。フンワリしたピンクに淡い緑のリボン。チューリップみたい。カワイイ!
これから、コレを着て、体育館でリハーサルをするのだ。
ボクが! ついに! ドレスを!
舞台に道具を配置して(大道具の仕事も手伝ってる)、ついに着替え!
しっかり汗を拭いて、シャツとハーフパンツ姿になる。加賀さんには女子が、ボクには男子が、着替えを手伝ってくれた。
「おっ着れそう。助かった」
本当によかった‼︎
腰よりずっと高いところに帯を巻かれる。思ったより軽い。触り心地もいい。少し動くと裾がヒラリとする。鏡で全身を見たら、すっごくカワイイ! 写真撮りたい!
でも、嬉しさを表に出さないように我慢した。鏡で姿勢を確認する。大丈夫、出来てる。お姫様みたい。ボクが!
裾を踏まないように、舞台袖に移動した。ボクの出番は5回。頑張るぞ!
「姫!」
そのセリフを合図に、走る。
出来た……と、思う。
舞台袖に戻ると、部長に手招きされた。
「え…クビ⁈」
「クビっていうか。今まで色々ありがとう。秋野さん(本来の影武者の人)も、裏方の人たち皆んなも明日から来れるっていうから。急なことばかりでごめん」
「あ……えっと、その…よ、よかったですね……あの」
頭が追いつかない。終わり⁈ ボクのドレス、もう終わり⁈
「じゃあ…このリハーサルで最後」
「いや、もう帰っていい。秋野さんとは明日合わせるから」
そんな!
せめてもう少しだけ、ドレスでいさせて! あと一回走らせて! …と言いたかった。でも。
「男子なのにドレス着る、なんて恥ずかしいこと頑張ってくれて、ありがとう」
部長さんに言われて、ボクは言葉を飲み込んだ。男子がドレスを着るのって『恥ずかしいこと』なんだ。
部長さんは、去り際に「今日の走り、一番良かった」と言ってくれた。
手芸部の人たちにドレスを脱がせてもらう時に、スマホで写真撮って欲しいとお願いした。
「えっなんで」
「…その…珍しいことした、記念」
精一杯、お姫様っぽい姿勢をした。
これで、ボクのドレスの時間は終わり。
おじさんに写真を見せたら「似合ってる」と言ってくれた。
泣きそうになった。
※※※
学校祭。
演劇部の時間、時々爆笑が起きてるのが、教室にまで聞こえた。
きっと、秋野さんが走って逃げたところだ。ウケてるなぁ。ボンヤリと思った。
吉田さんが、あとで舞台の様子を(無理矢理)見せてくれた。
秋野さんは、ボクよりずっと華麗に…お姫様みたいに、走っていた。
「大成功でよかったね」
「うん、皆んな発表会に間に合って、ホントよかったよー!」
そして、思い出したように「手伝ってくれてありがとね」と言った。
ボクは、なんとか「どういたしまして」と返した。
(了)
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