第4羽 日頃の恨みをこめて

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そんな風にボケーと考えていると、目の前で小さな子供がビスケットを食べているではないか!  これはチャンス、あの子供からビスケットを奪って……いや、それはやめよう。さすがにかわいそうだ。  だが、あの子が落としたビスケットのくずを食べることは許されるだろう。うん、そうに違いない。  俺はジッーと子供を見張り、いつ食べ終わるか待っていた。しかし、邪魔が入った。どこからか石が飛んでくる。俺はとっさに避ける。 「おい、カラス! 向こう行けよ」  どうやら友達でガキ大将らしい子供が投げたらしい。危うく翼に当たるところだった。自分が人間だったら、同じことをしたに違いない。  さて、どうしたものか。このまま公園でエサを待っても同じだろう。得られるものはなさそうだ。 「お前、何をしているんだ?」  そこにはさっきの猛者とは違うカラスがいた。まさか、また縄張りを荒らしたとか言われるのか? 「いや、俺はカラスになりたてで、なかなかエサにありつけなくて」 「カラスになりたて? なんだそりゃ。お前、すでに大人だろうに。仕方がない、こっちについてこい」  カラスについていくと――そういえば俺もカラスだった――ハトにエサをやっているおばあさんがいた。まさか、横取りするのか? 「いいか、しばらく待つんだ」  数十分経つとハトは満足したのかおばあさんの元から去っていった。すかさずカラスはおばあさんの元に羽ばたく。 「あらまあ、またお前さんかい。そうか、今日は可燃ごみの日じゃないねぇ。エサを取るのも大変だねぇ。ほら、ごはんだよ」  おばあさんはそう言うと、パンくずを地面にばら撒く。 「あれ、今日はお友達もいるのね。ほら、いらっしゃい」  どうやら、このおばあさんはかなりのお人よしらしい。カラスにエサをやるなんて、他の人からしたらいい迷惑だろう。  まあ、それは置いとこう。エサがもらえるのだ、文句は言うまい。  俺はたらふくパンくずを食べると、電線に戻る。 「おい、お前。まさかタダで飯を食べれると思っているのか? おばあさんにお礼をするのが礼儀というものだ」  カラスは飛び立つと空を旋回する。何かを見つけたのか、急降下すると口に咥えておばあさんの元に舞い戻る。くちばしには小銭を咥えていた。 「まあ、そんなものいらないのよ」  しかし、カラスは小銭を落とす。なるほど、そういうことか。エサをもらう代わりに人間のお金でお礼をする。こいつ、カラスにしては賢いぞ。 「しょうがないわねぇ。これは募金に使おうかしら」  独り言をつぶやきながら、おばあさんは去っていった。 「今度あのおばあさんからエサをもらったら、お前もちゃんとお礼をすべきだ」  俺はうなずく。 「じゃあな。次は自力でエサを見つけるんだな」 「ちょっと待ってくれ。お前の名前は?」 「名乗るほどでもないさ」  そう言うと、カラスは去っていった。  カラスにも優しい奴がいるのか。人間に戻ったら、あいつにパンくずをご馳走しよう。人間に戻れれば、だが。
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