第4羽 日頃の恨みをこめて

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 しかし、カラスはすごく暇だな。エサを取る以外はカァーカーと鳴くくらいだ。昼食は自分で用意しなければならない。さて、どうしたものか。  おや、あそこにいるのは同僚の成田じゃないか。奴は上司の目を盗んでは手を抜き――いや、上司も見て見ぬ振りかもしれないが――俺をいじめるという悪趣味を持っている。  カラスになったことで、奴と会わなくて済むというのもおかしな話だ。待てよ、向こうは俺がカラスだとは知らない。こんなチャンスを見逃すのはもったいない。何かやり返す方法はないだろうか。  お、ちょうど成田の進路に誰かの飲みかけのジュースがある。俺は急いでペットボトルに近づくと、くちばしを器用に使ってフタを外す。そして、成田の方向にペットボトルを倒す。ジュースは見事に成田の靴に飛び散った。 「うわ、何しやがる! この靴高かったんだぞ」  成田はそう言うと俺の方に向かってくる。何か追撃をしたいが、さすがにつつくのはやりすぎだろう。では、誘導して次なる攻撃を仕掛けるのみ。  俺は成田の攻撃をひらりとかわすと、カァカーと成田を馬鹿にするように鳴きながら進路を南に向ける。そして、俺を追ってきた成田は見事にトラップに引っかかった。路上に落ちたガムを踏むという罠に。 「くそ、なんてこった。ガムのねばねばは取り除きづらいんだぞ!」  成田はそう怒鳴るが、カラスの正体が俺だと知るまい。他のカラスなら成田の言葉の意味は分からないだろう。ふふふ、これ程愉快なことはない。  この調子で今まで俺を馬鹿にしてきた奴らに仕返しをしてやろう。そして、この街の噂を独占してやる。「ずる賢いカラスがイタズラをして迷惑している」という噂で。
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