恐ろしき「あの方」

4/4
前へ
/6ページ
次へ
 挨拶が遅れた理由? 存在を知らなかったからとは言えない。何か、ないか? この場をしのげる言い訳が。 「ここに来たのがつい最近でして。勝手が分かっておらず、失礼をいたしました」  うん、これなら無難だろう。我ながらナイスだ。 「それなら仕方がない。さて、ここに来たからには、お前にも私のために働いてもらわなければならない。まずは……そうね、そこの三羽の弟子として修業をつみなさい」  三羽ガラスの弟子!? 彼らは弟子ができることに感極まったのか、泣いている。こいつらのもとでまともに修業ができるのだろうか。ありえない。それだけは勘弁だ。 「お前は――失礼。あなた様は――」  訂正したが遅かった。隣にいたマスターは両翼で顔を覆っている。俺は覚悟した。恐ろしいことが身に降りかかることを。 「まあ、なんてことを! そんな呼び方されたのは久しぶりだわ。ゾクゾクしちゃうわ!」  ……。 「あなた、もっと私をいじめてちょうだい!」  ……。  なるほど、マスターが言った通り、ある意味恐ろしい事態になった。 「あら、お返事がないわね。まあ、これからいくらでも機会はあるから、よろしくね」  それだけは勘弁願いたい。 「まずは……そう、面白いイベントを考えてちょうだい」  面白いねぇ。抽象的すぎて困る。というか、カラスが面白がるイベントってなんだ? カラス界に詳しくないのに。まてよ、これならいける! 「みんなで人間にいたずらをしましょう。その中で一番面白いカラスが勝ち。これでどうでしょうか」 「うーん、抽象的だけど、それでいこうかしら」  いや、あんたの要望が抽象的だったからだよ! 「優勝したら、私を『お前』呼びする権利を与えます。クロ、頑張ってちょうだい」  うん、優勝しないように頑張ろう。そうしなければ、待ち受けているのは……考えるのはやめよう。さて、人間にいたずらしまくりますか。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加