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「宝のズボン、ぶかぶかで...歩いたらずれ落ちちゃうから洗面所に置いてきたよ。どうしたの?」
「いや....それなら仕方ないな、うん」
無自覚でやっているから余計にタチが悪い。目のやり場に困るので海専用の寝巻きを近い内に買いに行かなくては。
何とか納得して同じ様に席に着き「頂きます」と一緒に手を合わせる。ハンバーグに切れ込みを入れて一口分を箸で摘んだ後、ゆっくりと小さな口に持っていき、パクッと頬張る。そして...
「──美味しい。宝、料理上手なんだね」
ほわっ...と気が抜けた様な柔らかい笑顔を見せてくれて、胸がきゅーっとなった。海が喜んでくれた。嬉しくて分かりやすい位ににやけてしまう。
「大学生になってからだよ。見よう見まねで練習してやっと上達した感じ。海に美味しいって言って貰えて、今迄練習した甲斐があったよ」
その瞬間、目の前の海が箸を止めてカーッと顔を赤く染めていく。
「宝って....恥ずかしい事さらりと言うよね」
耳迄赤くなった海は言葉通り恥ずかしそうに目を伏せてハンバーグを食べ続ける。「何か変な事言った?」と聞いてしまうが、彼は何も答えずにパクパクと口にし、「ご馳走様っ」とあっという間に先に食べ終えてしまう。
「僕が片付けをするから、宝も食べ終わったらお風呂入ってきていいから」
「う、うん」
空になった皿をシンクに入れて洗い物を始める海を見て肩を下ろす。再会した時の張りつめていた空気が和み始め、段々と昔の調子が戻ってくる。過去の様に一緒に居られる事が純粋に嬉しくて、俺は口角を思わず緩めながら食事の続きを再開した。
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