episode 1

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吐こうとしていた台詞が空洞になって消えていく。駄目だ....いざ聞こうとすると、もしかしたら海はもうあの時の事を忘れたがってるかもしれない、嫌われるかもという嫌な想像ばかりしてしまって気が散る。 グッと言葉を呑みこんで、同じ様に彼に背を向ける形で寝転ぶ。またこうして再会出来て同じ空間に居るのに、以前よりずっと遠く感じるのは、海に対して違和感を感じ続けているからだろうか。 「──おやすみ、海」 眠っている彼にボソッと言う。 いつの間にか聞こえなくなっていた寝息を特に何も感じる事なく目を瞑って深い眠りに堕ちていく。自分が寝た後、確認する様に身体を起こして「宝...?」と顔を覗き込んでくる海。反応がない事に安堵すると、自分の頬にそっと手を当てて目を弓形に細めながら呟いた。 「ごめんね、宝」 なんだか....夢の中で海に謝られた気がする。よく分からない、まるで透明な夢を見た。 珍しく朝早く起きた自分は、いつもは適当にしている朝食を丁寧に作り始めた。バタートースト二枚とスクランブルエッグ、ベーコン、そしてフルーツの入ったヨーグルト。「頂きます」と手を合わせて、朝のニュース番組をボーッと見ながらトーストを頬張る。チラリと目線だけで寝室を見る。物音一つしない.....恐らく海はまだ起きてこないのだろう。思えば彼は学生時代も朝が弱かった気がする。
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