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今、追ってメッセージを送ってしまったら──彼ともう一度話すチャンスを逃してしまうかもしれない。ここは慎重に反応をみよう。そう思って特にそれ以上は何もせずに携帯をポケットに入れた。
海とは、あの日迄は本当に変なわだかまりも無く、変わらずずっと一緒に居た。好きだと自覚したのは結構早かったが、彼がどう思っているのか気になって直ぐには告白出来なかった。
卒業したら離れてしまうかもしれない──海の進路を知らなかったから、彼に想いを伝えて繋ぎ止めようとした。そう簡単に両想いになんてなるとは思っていなかったけど...
『──だめ。だめだよ、宝』
まるで、自分が何を伝えようとしていたのか気付いていたみたいな素振りだった。開こうとした口を両手で塞ぎ、首をゆるゆると振る海。真っ直ぐ視線を合わせた彼は泣きそうな表情で『ごめん』と小さく続けて、もう会えないという台詞を吐いた。こんな展開は想像していなかった。
(俺の事が嫌いだからもう会えないって言ったのか....海と結構長い間居たつもりだったけど、全然分からないな)
帰路を歩きながらそんな事を考えていると、ふと視線の先の不動産屋が目に入る。賃貸の情報が貼られた壁を真剣な面持ちで見る青年の後ろ姿がやけに海と重なったのだ。思わず通り過ぎる直前迄ジッと彼を見てしまった。
(──この匂い)
青年は顔を上げ、別方向に向かって自分を横切っていく。ふわりとどこか懐かしい匂いが鼻を掠めて動きを止める。
振り返り、無意識の内に青年の腕を掴んでいた。帽子を被っていた青年の顔をはっきり確認出来た時、俺は叫びたい気持ちを必死に抑えて彼の名前を呼ぶ。
「──海」
久々に呼んだ彼の名前。
何度も呼んだ筈なのに声はみっともないくらいに震えていた。目の前の彼は大きく目を見開き、掴まれたままの腕を解けずに硬直していた。
約二年半の時を経て、俺と海は偶然再会した。
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