episode 1

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「アイスコーヒーでお願いします。海は?」 「.....カフェオレ」 ボソッと俯いたまま呟く海の代わりに「カフェオレでお願いします」と店員に伝え、開いていたメニューを脇に置く。顔を上げると居心地悪そうに慌てて視線を逸らす海の姿が。あの後、間髪入れずに『ちょっと一緒に話さない?』と引き止めてしまったが── 「えっと.....久し振り。二年振りだね」 断られなかったから、もしかしたら話す余地はあるのかもしれない。そんな期待を込めておずおずと会話を振る。ピクッと反応した彼は「....うん。久し振り」と返答してくれた。 「メール....ずっと見ていなくてごめん。卒業してからずっとバタバタしていて....、......」 「.......」 物凄く気まずい沈黙が訪れ、いつの間にか届いた飲み物に手を伸ばす。周りの騒めきが自分達の静けさを余計に引き立てている気がする。聞きたい事.....あんなに沢山あった筈なのに、いざ本人を目の前にすると何も聞けなくなる。 「あ.....家、探していたりするの?」 不意に賃貸アパートの張り紙を真剣に見ていた時の事を思いだして慌てて聞く。思い出した様に瞬きした彼は頷き「今住んでる所が結構古いから取り壊される事になって」と返す。半強制的に追い出される事になった今、住む所を探しているらしい。 「専門学校の友達の所に泊めてもらう事も考えたけど.....彼女持ちが多いし、流石に申し訳なくて」 (あ──) 耳を触る癖.....変わっていない。 見た目も、あの頃と変わらずずっと綺麗で目が離せない色気が出ている。海は...俺の事をどう思っているんだろうか。ただの幼馴染....?俺が海の事をどう思っているのかとっくの昔から気付いていたりするのだろうか。 「──住む所がないんなら、俺の所においでよ」 思考より先にそんな言葉が口から滑り落ちた。カランと乾いた音がガラスの中で響く。空になったガラスの表面を雫が下に向かって伝っていく。
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