70人が本棚に入れています
本棚に追加
「びっ....くりした。どうしたの、これ」
「近くのスーパーで買ってた。酒は普段飲む?」
その場に座り込み、カシュッと音を立てながら酒缶の蓋を開ける。同じ様に壁に凭れ掛かる形で座った海は爪でカリカリと表面を弄った後「あまり飲まないかも」と言いながら開ける。
「海、荷物の搬入初日から気になっていたけど、荷物少なくない?本当にあれだけなの?」
取り込まれた荷物は殆ど無く、衣類と軽い生活用品、そして画材のセットのみである。海は卒業後絵の専門学校に入学し、絵を描く毎日を送っているらしい。荷物があまりにも少な過ぎて思わず聞くと、彼は苦笑いしながら酒缶に口を付けて答えた。
「あまり物は買わないんだ。絵を描いている事が殆どだから外にもそんなに出ないし....、.....」
「海?」
途端に海が黙りこくって隣から顔を覗き込む。目に掛かりそうな長さの前髪の下で彼の大きな瞳が此方をジッと見てくる。まるで、自分の胸の内を探る様な視線に心臓がドキッとなる。
「どうして宝は僕にそんなに良くしてくれるの。僕は....宝に何も返せないよ。それに....あの時、あんな言い方して突き放したのに....」
海からその話題を振られるとは思わなかったので、少し動揺して「あ...」と上擦った声が出そうになる。特に気にしていなかった雰囲気を装うと慌てて「気にしてないよ」と思ってもない発言で取り繕う。
「海にも何か事情があったんだよね。寂しかったけど、またこうして普通に話せて俺は嬉しいよ。嫌われてる訳でも無さそうだったし──」
「嫌いになんてなる訳がない!」
食い気味に遮られて驚いて彼の方を見ると、服の袖を引っ張り悲しそうな、何かを訴える様な表情で見つめていた。瞳はじんわりと滲んでいる涙で潤んでいて、心臓がギュッと鷲掴みされた様に痛んだ。
最初のコメントを投稿しよう!