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「う、海」
顔が、近い。
ふわりと海の匂いが鼻を掠めて思わず彼の頭を撫でそうになる衝動が湧き出る。
ふわふわの髪。
まるで吸い込まれそうになる青い瞳。
中性的な顔立ち。
中学生の時からずっと変わらない。海に見つめられると、石になったみたいに動けなくなる。目を逸らせない、物凄い引力さえ感じさせられる。
「──ごめん、取り乱して。宝の事は嫌いになんてならないよ。.......宝は....」
「海....?」
我に返ったかと思いきや、居心地が悪そうに落ち着かなくなる海。目が合った彼は泣きそうな表情のまま「宝は....僕の事を嫌いになってない?」と聞いてきた。
「....俺が海の事を嫌いになんてなる訳ないでしょ。嫌いだったらこんな事しないよ」
肩を叩き、優しい口調でそう返す。むしろ、ずっと引きずるくらい大好きだ──なんて台詞は口が裂けても言えない。
喉奥から出そうになった言葉を無理矢理押し込んで笑顔をつくる。海は少しだけ驚いた表情をつくった後、心から嬉しそうに、でも悲しそうに「そっか」と微笑んだ。海は昔からこんな笑い方をする。いつからだろうか。無邪気に笑う海の表情がどこか憂を帯びた様になっていったのは。....いや、そんな事は気にしても仕方ないか。
「さてと....日も暮れてきたし、夜ご飯の支度をするか。海、先に風呂入っておいで」
「え...僕が先に入るの?料理するなら僕も手伝うよ。今日から此処に住むんだし....」
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