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愛と呼ぶには曖昧で
雨の日はやっぱり嫌いだ。
せっかく頑張って準備したものを濡れないよう、細心の注意をしなければいけない。自分も濡れたくないし、泥がはねてスーツが汚れるのも嫌だ。この前買った新しいスーツはなかなか思い切った値段だった。
でも、家に帰ったら大事な人たちが待っているなら、どんな日も悪くない……のかもしれない。いや、それでもやっぱり雨は好きじゃない。
とりあえず一緒にいてみるところから始まって、もう長いこと一緒にいる。途中、晴臣が他の人と付き合ったり、オレが2人といないほうがいいと自棄になったり。何もなかったわけじゃなかったけど、今も3人だ。
晴臣と美雨は、大事に想う気持ちを家族愛のようなものだと言っていた。オレはそれとも少し違うのかもしれない。いまだによくわからない感情のままでいるのに、2人が付き合ってくれている。
「――ただいま」
「おかえり! 雨、結構強かったよね。晴くんもさっき帰ってきてシャワー浴びてるよ。幸哉はどうする?」
柔軟剤の香りがするタオルを差し出されて「ありがとう」と受け取る。自分より、持っているショッパーが最優先だ。雨が降りそうだからカバーをかけてくれると言った販売員さんの親切を断らなければよかった。
さすがにまったく濡れないというのは難しかったけど、これならまあ許容範囲としておこう。タオルで拭けば気にならない。水を弾いてくれる素材で助かった。
「オレは、今はいいや。後でにする」
「わかった。着替えてきちゃってね。今日は晴くんが冷製パスタ作ってくれるよ」
拭き終えたタオルをオレの手から取って、洗濯物置き場に持っていこうとしているであろう美雨に、もう一度「ありがとう」と伝えた。
せっかくなら、スーツでいるうちの方がいいよな。ちょっとでも格好をつけていたい。
「おー、おかえり、幸哉。今日はやっと定時で帰って来られたから、美雨ご所望のお高いケーキ買ってきた」
「あれか、この前美雨がテレビ見て食べたいって言ってたデパ地下のやつか。オレも気になってたからそれは嬉しい……って、今はそうじゃなくて」
ごほん。オレは咳ばらいをして、静かに息を吐く。気持ちを切り替える。
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