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「ちょっと、渡したいものがあるんだけど」
仕事で営業先にプレゼンをするときより、はるかに心臓が大変なことになっている。戻ってきた美雨が興味津々に寄ってきた。
微かに震える指先で、触り心地のいいショッパーから小さなリングケースをつかむ。数は3つ。玄関にある棚の上にそれらを並べて、美雨と晴臣の分を差し出した。
もう買ったことは2人とも知っていて、渡すことも話していた。それでも、こんなにもそわそわしてしまう。
「これ、取りに行ってきた」
「わー、もう開けていいの⁉ ありがとう。大切にするね!」
「おい、まだ嵌めるなよ。せっかくなんだし美雨のは、幸哉がやってやれよ。俺は幸哉にやるから」
あ、そうか。自分で嵌めてもらおうと考えていたオレは、考えがこんがらがって手が止まってしまう。そもそも、玄関でいきなり始めたのも失敗だった。
晴臣が苦笑しつつ「部屋着で悪いな」と言った。オレのほうこそ、そういうことに気が回らなくてごめん。つい、自分ばっかりになって気持ちが急いでしまった。
「ごめん、リビング移動しようか」
オレから提案すると、美雨が「すぐほしいからいいよ」ときらきらした瞳で笑ってくれた。
「あたしは晴くんにやってあげるね。なんかすごいねぇ。2人ともあたしが昔言ったこと、叶えてくれてありがとう」
「美雨の憧れだもんな」
「ほんとにね。やってあげる側もできるなんて、わくわくする」
優しい微笑みを浮かべる晴臣と、期待に満ち溢れた顔をする美雨。どちらも愛おしい。
とくに美雨は、晴臣が間違えて買った子供用エプロンをつけているのがおかしい。小柄なおかげでサイズに違和感がない
3人それぞれ好きなブランドの指輪を買うのはなかなか苦労したけど、この顔が見られただけでその甲斐があったと思える。
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