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「結構、買うまでに時間かかっちゃったな。ほしいって言われてたの買えて良かった」
「取りに行ってくれてありがとう。俺も大事にする」
Tシャツ姿の晴臣だって、最高だ。部屋着で悪いことなんて何もない。いつも通りの晴臣を見ていたら、かえって落ち着きを取り戻せた。
「よし、それじゃあ――」
渡すリングケースを変えて、オレは美雨の分を持つ。
落ち着いたはずが、一瞬で緊張感に飲まれてしまった。生まれて初めてすることに心臓が対応しきれていない。リングケースを開ける手に力が入ってかくかくしてしまう。
そんなオレを笑わず、真剣な顔つきで見つめる美雨と目が合った。吸い込まれそうな黒い瞳に息を呑んで、美雨の細くて柔らかい薬指にそっと指輪を押し込んだ。
それから今度は、美雨が晴臣の薬指に。晴臣が、オレの薬指に。左手の薬指がこれまでの積み重ねのようにずっしりと感じられた。
美雨が自分の薬指を宝物のようにうっとり眺めて、晴臣は何だかちょっと目を赤くしている。
この光景にたどり着けるなんて、あの頃のオレは夢にも思っていなかった。
「……ずっと、一緒にいてくれてありがとう。これからもよろしく」
3人で、右手につけた指輪を見せびらかすように向けて、笑い合った。
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どちらも大切で、どちらもほしくて。
それを恋と呼べなくても、愛と呼べなくても。
こんな身勝手な自分を受け入れてくれた2人のしあわせそうな顔を見られるなら、もう何だっていい。
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