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高校最後の地区予選。
トーナメント戦というのは、天国と地獄だ。
勝てば嬉しいけど、負けたらそれっきりなんだから。
地区予選の初戦。こんなところで負けていられない。
一試合だって多く勝って、ひとつでも多く、このメンバーでもっともっと試合がしたいんだ。
気合十分で臨んだ試合。絶対に勝つ!
そう思っていたのに……。
……やってしまった。
残り一分を切った場面で、相手のシュートモーションに対してファールをしてしまった。
相手のシュートしたボールはゴールネットを揺らし、さらにファールによるフリースローが一回行われる。
このシュートにより、得点差は四点差。さらにフリースローで相手に決められてしまうと、五点差になってしまう。
ここで監督がタイムアウトをとった。
ファールをしてしまった私は、申し訳なくて顔があげられない。
俯いてベンチへと向かうと、キャプテンのミナから背中に激しく喝を入れられた。
「なに俯いてるの! まだ勝負は決まってないよ!」
「ごめん、でも、私のファールがなければ……」
「今はその後悔より、この先を見て! 時間は三十六秒。フリースローで一点入れられても、次は私達の攻撃よ。早々にボールを回して、一秒でも早くゴールを決める! そして大事なのはこの先」
ミナは私たち全員の顔を見回して、力強く言った。
「勝負に出るよ。できればスローイン時の五秒バイオレーション(※1)。とにかくボールを入れさせない。そして、もしボールが入ったらダブルチームいくよ」
それは、捨て身かもしれない戦法だった。
そもそも五秒バイオレーションは、狙っていてもどうしても入れられてしまう事が多い。そのうえで、ダブルチーム(※2)なんて……。
失敗すれば数的不利に陥って、かえって点を取られてしまう。
フリースローを入れられた後、うちがもしスリーポイントを決めても、その時点で二点差で負けているんだ。そこでもし、抜かれてしまったら……。
不安に思っていることが顔に出ていたのかもしれない。
「大丈夫! 何度も練習してきたし、まだ終わりじゃない。終わりたくない。そうでしょう!? 私はイヤだよ。これで終わりなんて」
ミナの叫びに近い声に、ハッとする。
そうだ。慎重になんて言っている時間はないんだ。
残り三十六秒。普通に試合を運んだら攻撃回数は一回ずつで終わってしまうかもしれないけど、相手の攻撃を潰せれば、あと一回攻撃回数が増えるんだ。
「これで終わりにしたくない。あと一回、なんとしても攻撃のチャンスを作るよ!」
「うんっ! 終わりたくない! やろう!」
ミナの言葉にわたしも他のメンバーも大きく頷いた。
※1.五秒バイオレーション…試合再開時、五秒以内にボールをエンドラインの外から味方に渡さなければ反則となり、攻守が交代になる。
※2.ダブルチーム…ボールを持っている選手に二人でディフェンスにつくこと。
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