単身者A

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「おやすみー」  そう言うと俺はベッドに潜り込んだ。今日も残業で疲れた。今日はよく眠れそうだ。  ところがそうはならなかった。眠れないのだ。何かが頭の中でモヤモヤしていた。  なんだろう。この釈然としない気持ちは。何かが引っかかって取れないもどかしさは。  わかったぞ。さっきの「おやすみー」だ。俺は独身で一人暮らしなのだ。いったい誰に向けて言ったのだろう。目の前にある首の曲がった扇風機か。それとも部屋の隅にある埃被ったギターか。はたまた自分自身に対してか。  なんだか余計にモヤモヤしてきた。俺はこう見えて神経質なのだ。  俺は気晴らしにテレビを付けた。  夜のニュース番組だった。  ぼんやり見ていると、臨時ニュースが飛び込んできた。 「臨時ニュースです。地球二個分の超巨大隕石が、超高速で地球へ接近中との事です。地球はすぐに粉々に……」 なるほど。そういうことだったのか。俺は地球上に生きとし生けるもの全てに対して「おやすみー」と言ったのだ。  やれやれ。スッキリした。  今日はよく眠れそうだ。
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