5話・奥が深い美容術対決

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5話・奥が深い美容術対決

 美容術の対決も最終日。コマチが遊びに来た。正確には椿油を買いに来たのだ。 「椿油が安いから。うん、商店街はなんでも高いよね」  竜の涙より、椿油が売れる。たしかに樽を持って歩くのは女性としてなんぎだろう。 「有ったよね。お洒落な陶器に入った椿油が。美容品は高いのがいいのかなー」 「付加価値らしいけど。他人へ見せるものじゃないしね。中身が同じなら、私は安くてもいい」  なるほど、コマチはお洒落なほうで、浴衣の帯には凝っているらしい。農園の娘とかで、屋敷だけ構える子爵令嬢のアーホカよりは豊かな生活をしていた。財力や影響力ではコマチの農園が強い大人の事情があるらしい。 「あのれいじょうは、いつも営業して歩いてる。だから、お客も多いはずだよ」 「営業も必要かなー。ちょっと、フーモト地方からは遠いし、夕方になるから」  仕事中に営業して歩くわけにもいかない。ただ、アーホカの施術へ、いつも客が並ぶ理由は分かったきがした。  客とのコミュニケーションみたいなことをしていると、ダニエルがやってきた。3時ごろは迎えにくるが、目的はハルナへ会うことだと気づいている。 「きのうはおおきに」  お喋りを始めた。コマチも若い貴族に興味を持ったのだろうか。話の間に入り込む。 「弟様ですか。あのキューりはいかがでしょう。うちの農園で採れましたのよ」 「これは新鮮そうですな。市場にも置きたい」 「ぜひとも。アカリーヌ様の弟様なら、フーモト地方でございましょう。荷馬車で、朝のうちにお届けいたせますのよ」  これが営業というものか、と納得した。  ハルナがライバル意識を持ってしまったらしい。 「よろしいおまんなー。市場はアカリーヌ様が仕切ってるようやでー。話したらよろしー。なーダニエル様」 「よろしゅうに。姉上のご判断を承りとうございます」  ダニエルも威厳は持ちたいが、ここで、姉に逆らうことはないようだ。 「結局は母です。ま、話しておきましょう。婦人会の集まりでは王都へ出かけるはずです」 「それでは。婦人会の幹事をなさってる男爵夫人が、そうでしょうか」  ほかに貴族がいないと、代名詞でことたりるらしい。 「それで通るんだ。うん。貴族付き合いよりは良いとの考えらしい」 「いやいや、こっちこそ。やはり違いますよ、貴族の方が仲間におりますと」  あれ? コマチは結婚しているのか。初めて知った。二十歳までの結婚率は高いが、思惑があり、貴族令嬢に独身も多い。  雑談をしている間にも、3時の鐘が鳴り、キャリロン王女たちが現れた。 「アカリーヌ。ニーバンとは知り合いか?」  まっすぐな性格だ。 「市場のお客さまでございます。たまに見かけると話すような仲でございます」 「そうか。恋することは良いことじゃ。女が綺麗になれる特効薬であろう」 「さようでございますか」  アカリーヌに実感はないし、蹴飛ばしたことで、次に話すときはどうしようか迷ってもいた。 「あれはな。蹴飛ばすぐらいがいい男じゃ。相談にのるぞ」 「いえいえ。あの。そろそろ施術の準備を」  元の婚約者とはいえ、あからさまに言いすぎも問題だろう。公私混同などは考えないらしい。やはり自分の思いのままに行動したい王女様のようだ。 「そうじゃった。最終日じゃ」  キャリロン王女は周りへも合図する。いよいよ、美容術の対決が本格的に始まるのか?   それより、サナエも巻き込むはずの恋愛模様がこじれるのか。いまは、考えないでおこう。十万円をかけた施術が始まろうとしていた。
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