5話・奥が深い美容術対決

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 イザベルとシラベルに伴われてエマたちが現れる。胸の大きく開いたドレスで、舞台演劇風とも思えた。  マームが小声で教える。 「きょうは昼間に講演があったそうでございます。急いで来られたのかと」 「舞台は厚化粧をすると聞いてるけど。落としたのね。それで」  クレンジングはしたはず。それでも、必要なのか。まずは肌を見てからだと思う。  エマは未だ舞台の余韻で緊張しているようだ。 「あの、竜の目とかいうの。気持ちが安まるから楽しみにしておりました」 「温熱はリラックスしますでしょう」 「そうだね。それより、快復祝いは華やかだったでしょう。貴族方がそろうと。面白いことはなかったかしら」 「面白いですかー。王女様の前で男を蹴飛ばしましたが」 「お転婆な令嬢だね。だれかしら」 「私です。聞きます?」 「これは失礼。というより、シリアスな演技をしたので、喜劇みたいな話を聞きたいところだ」  それなら、とニーバンと踊ったことを話す。 「イケメンでしたから、まわりの嫉妬みたいな視線もありましたねー」 「演劇より面白いな、貴族たちは」  エマも柔和な顔になり、なにかを思いだしたように笑う。 「女王様も良く言ったって感じだね。へえー、威張ってるだけじゃない」 「あんがいね。いや、聞いてるかも」  イザベルたちと並んで審査席に座るのに気づいた。 「楽しそうじゃな。リラックスするのは良いことじゃ。まだ施術は始まらないか」  たしかにそうだが、肌を観察もしていた。軽くマッサージするだけで良いだろう。コミュニケーションを取るのも施術するときの基本だ。  美容術で顔面マッサージは、こすったりさすったりの肌の刺激で皮下細胞を壊す恐れもある。血液循環が良くなることで肌の代謝は良くなるが、顔の筋肉を鍛えるわけでもない。化粧水で角層を柔らかくしてから、オイルやクリームなどを使って滑りをよくしてからマッサージ。たぶん施術している人は、素人が思うより軽く触れている。  アカリーヌはいつもより軽く丁寧に施術する。 「デコルテもできるかな。ちょっとやりにくいし」  エマは自分の手で鎖骨へするのが苦手のようだ。 「よろしいですよ。ちょっとあれですが」  胸元まで濡れるかもしれない。マームにタオルをお願いして、エマの胸を覆う。耳の下から肩先へと、鎖骨の窪みへまで軽く摩る。自分でやるときは反対の手でやりやすい。首と肩の付け根にリンパ節があり、鎖骨はそこへむけて摩る。 「逆だったかな。こう、撫でおろしてた」 「リンパの流れはそうですが、刺激にはなると思いますよ。左側と、できれば、脇などにも大切なリンパ節がありますから」  軽くさすれば、リンパ液を刺激することになるだろう。リン波念力とは、リンパマッサージのことだと思う。  皮膚を押せば、へこむ位置にリンパ管はある。軽く摩っても刺激を受ける場所だ。アカリーヌが施術するリンパマッサージは、鎖骨リンパ節からはじまり、耳のうしろから鎖骨へ。耳の前から後ろへまわし、鎖骨へ。顎の下から耳の後ろへ。顔は中心から耳の前へ。頬骨あたりから顎へ。こうして、最初に戻る。やりかたには、別の方法もあるらしい。初めて、鎖骨からを公開したわけだ。  エマはアカリーヌが気に入ったようだ。 「椿油もな。商店街で買い求めた。お洒落な瓶にはいっていた」 「やはり、容器もたいせつでしょうか」 「インテリアになる。アカリーヌは飾りが嫌いか」 「そうですねー。高いのはちょっと」 「輸入したカメリアンオイルより椿油は安いものだ。やはり女はお洒落がいい」  コマチも浴衣にはこっていた。 「竜の涙も、樽では売れないからね」 「化粧水もお洒落なもの。フモート地方では手軽に使えるのか」 「湧水ですから。使おうと思えば」  源泉の場所で施術も考えるが、田舎だ。 「もっと流行れば、フモート地方へお客様を呼ぶことも可能になるはずだ」  心強いファンができた。リン波念力も、美容術のライバルは多いし、竜の涙を売るのがいいのか。あとひと工夫は必要だと感じた。  アーホカの施術も終わったらしく、キャリロン王女が立ち上がる。 「勝者を決めるときがきた。施術者とモデルは観客の前へでよ」  はたして、今度の美容術対決に隠されたテーマは何かも明かされるのだろうか。
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