第二ボタン(竹田side)

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 学校の正面玄関のエントランス横。今年の桜は、いつもよりも早く咲きはじめていた。  それでも卒業式までなんとか持ちこたえた健気な花びらたちが足元でピンクのジュータンを作り、俺たちの船出を祝ってくれていた。  春の柔らかい風が吹く度にピンクの花びらが舞い、ライスシャワーみたいにフワフワと風にのって揺らめきながら俺たちの巣立ちを華やかに彩ってくれている。  小豆色の天鵞絨の上品なカバーのついた二つ織りの卒業証書を小脇に抱えた卒業生たちがあちらこちらで記念写真を撮り、笑いながら涙を流して各々別れを惜しんでいる。  花束をもってカイを待ち構える隠れファンの在校生女子たちに押し流され人の波から弾き出された俺を横から呼び止め、こそっと連れ出したのは笹木さんだった。 「あの、竹田くん?ちょっといい?」 「ん?あぁ…」  笹木さんのあとをついていく途中、人混みの向こうにキョロキョロしてる悟の横顔を見かけた。  この後、アリーナに集合して、最後にバスケ部のみんなで記念写真を撮ることになってる。きっと三年生の俺たちを探してるんだろう…。  卒業式の立て看板で記念写真を撮ろうとして並ぶ長蛇の列を横切り、門の横で笹木さんと静かに向き合う。  こっちを向く笹木さんの背中の向こうから静かに近づいてくる悟の痛い視線が俺の顔に刺さるのを気にしながら俯く笹木さんの言葉に耳を傾ける。  クラスであんなにずっと仲良くしてた笹木さんの事よりも、俺は今、向こうから近づいてくる視線の方が気になって仕方ない…。  人混みを掻き分けて近づいてくるあいつの足音が、彼女の声を一瞬掻き消したような気がして、よく聞き取れなかった。 「ん?ゴメン…、なんて?」 「竹田くんの、第二ボタンが欲しいの…」  なんとか絞り出すような必死な彼女の言葉を聞いていたはずの俺の視線の先は、目の前のそんな彼女を通り越して、その向こうに立つその痛い視線をまっすぐ捉えていた…。 「ずっと言えなかったから。最後だし、今日言うね…」  俯く笹木さんのつむじを眺めると悟の、すぐ後ろにいた子と目が合った。  こっちに近づいてくる悟の後ろを不安そうに追いかけてきたのはあの子だった。薫ちゃん…  
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