第二ボタン(竹田side)

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 その瞬間、なぜか俺の目から涙がポロリとこぼれた。本当に突然、なにも意図せず。それが何の涙なのかも自分ではわからないまま。  するとそれを見ていた笹木さんの緊張した顔が緩んで静かに微笑んできた。 「それって…違う…よね…?」 「ん?」  笹木さんが遠慮がちに言葉を選びながらなにかを確かめてるかのように一言、一言丁寧に優しく俺に言った。 「そっちの…好きじゃ…、ない…よね…?私のことは…」 「え?」 「本当はね、わかってたんだ。だからお別れの記念にボタンを貰おうと思ったの。」 「え?好きだよ?」 「人として好き、なんでしょ?ラブじゃ、ない。」 「あの…。」 「わかってたの、でも最後にちゃんと自分の気持ちだけ伝えたかったの。」 「笹木さん…」 「竹田くん、いるもんね。ちゃんとラブの好きな人…」 「あ、あぁ。」 「それって、まだカイくん?それとも…」 「いや、多分、もう違う…」 「やっぱりそうか。どっちなのかなって思ってたけど。竹田くんの好きな人…。その涙はきっとそう言うことなんでしょ?」 「え?」 「ほら、これ欲しいって。渡してきなよ。悟くんに。」  笹木さんのてのひらの上にはたった今俺が引きちぎった第二ボタンが乗っかってる。それを俺の方に突き返す真似をした。 「笹木さん…ゴメン。けど俺、まじで好きだから。笹木さんのことは。」 「うん。わかってる。私も。好き…だったよ…」  笹木さんの目がみるみるうちに赤くなり、涙が溢れてきた。 「今日までありがと。楽しかった。元気でね。やっぱりこれは返すね。」 「ちゃんと、好きな人にあげなよ…」  無理やり笹木さんは俺のポケットにボタンを押し込んで逃げるように去っていった。  __俺のラブの好きな人…?誰だっけ…。  高校一年の時は、この笹木さんを間違いなく好きだと思ってた。  けど、最近、カイに対する気持ちが親友としてじゃなくて恋だって気づいて。  そんなカイに失恋して。それってラブか?  それで?  いま、気になってるのはその二人でもない…。俺が今、好きなのは…。  気がついたら走って追いかけてた。 学校中探しまくって。  __見つけた。俺の…  校舎と校舎の間の植え込みのところで壁に背中を預けて座り込み、膝を立ててる悟。そばにはあの薫ちゃん。 「あたしじゃ、ダメかな…」  そんな薫ちゃんの声が聞こえてあわてて俺は壁の陰に隠れた。  __今さらもう、遅いか…。  俺のなにより大事な宝物…。  思い出と共に別れを告げ、今日俺は旅立つ。  ポケットの中のボタンをギュっと握りしめた手が痛い…。  俺はあれからずっと、このボタンを捨てられずにいる…
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