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俺の心のモヤモヤは(竹田side)
頭の上から降り注ぐような蝉時雨のイヤな音がいつの間にか静かになり、気がつくと辺りは足元から聞こえてくる心地よい鈴虫やコオロギの涼しげな音に変わっていた。
朝晩の風がなんとなくひんやりとして昼間のまだ残るいやな暑さを少しずつ和らげてくれる。秋の葉を揺らす風に乗って、冬の足音が少しずつ近づいてきている。
部活を引退してからだいぶ経ったそんな高校三年生の二学期のある日。
専門学校への進路も決まって連日バイトに明け暮れる俺も、今日はバイトがオフだし、久々に引退したバスケ部に顔を出したくなって活動場所になってる8号館のアリーナに向かった。
進路のことでピリピリしてた俺を気遣って、悟は最近俺に近づいてこないんだって、少なくとも俺はそう、思ってた…。
バスケ部の一年男子三人が相変わらず、予想通りワチャワチャしながら話しているところにちょうど俺が顔を出した。
後ろから静かに近づいてくる俺に気づいてないあいつらはいつもみたいにじゃれ合いながら騒いだりして話してた。
そこにいるはずのない俺が、たまたま居合わせたせいで、そんな彼らの話の内容を偶然耳にしてしまった。
「あのさ、悟?田城みのりの友達の橋元薫っているじゃん?」
「橋元薫?だれ?」
「ほら、花火の時?来てたじゃん、となりのクラスの…。ちょっと綺麗めな…」
「あー、そういえばいたな。違うクラスのやつ。」
「そいつがね、お前の事、気に入ってるらしい。」
「うっそマジか、遂に俺もモテ期到来か?」
「どうする?一回一緒にどっか行っとく?おまえ、前のあの子とはもう別れたんだよな?ユウカだっけ」
「は?なんだよ、その一回試しに、みたいな言い方…、ユウカとはもうとっくに別れてる。いつの話してんだ」
「え、だって、なぁ。結構可愛いし?いい子チャンだぞ?逃したらもったいないぜ?」
「でも、俺には愛しの悠祐チャンがいるしなぁ」
「は?お前まだそれ言ってんのか?て、どうせいつもの冗談だろ?」
悠祐ちゃんて、俺のことじゃん。てか、いたんだ、悟に彼女…。なんだよ、その冗談て…。
「ははー。よくわかってんじゃん。別に俺は柴咲…お前でもいいけど?俺はお前でも全然イケる♪」
「は?お前さ、やめろってそう言う誤解を招く言い方。なんか、マジみたいに聞こえんじゃん…。」
「なんてね。残念ながら悠祐ちゃんは俺なんか相手にしてねーもん。だから代わりにお前が相手してよ♪ねー、柴咲ちゃんたらぁ。」
「だからやめろって、そう言うのマジで。ゲイかよ。」
「なんだよ、そんなにいやがるなよー。俺たち仲良しだろ。なぁ柴咲ぃ愛してる。」
「悟!お前マジでそう言うのやめろって。離せコラ。顔近いっつーの。マジうざ。」
背中を向けていつまでも抱き合ってるから後ろから声をかけてやった。
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