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Ⅰ
――こんなこと、正しいわけがない。
頭ではそう分かっているのに、不安な心が手を動かしていた。
彼氏の浮気を疑う彼女の行動として、特段珍しい話ではないだろう。
チャンスは今しかない。確かめるなら今しかない。
アツヤがお風呂に行っている、今しか――。
飾り気のない、シンプルな黒いスマートフォンを持ちあげて画面に触れると、ロック画面が表示された。
『PINコードを入力してください』
テンキー入力表示がされたということは、数字のパスワードだ。
無理だと分かってはいたがアツヤの生年月日を6桁で入力してみた。
結果は『PINコードが正しくありません』だった。だよね。
昔はロック解除と言えば相場は暗証番号4桁だったのだが、世のセキュリティ意識の向上のせいか、今や桁数は自由に設定できてしまう。
とは言え、常日頃アツヤがロック解除に大量の文字を入力している気配はない。だから精々6桁くらいであろうと予測したのだ。まあ仮に6桁だったとしても、その組み合わせは無限大なのだが。
私は自惚れているとは思ったものの、自分の生年月日を6桁で入力してみた。
結果は『PINコードが正しくありません』だ。でしょうね。
私はその勢いで心当たりのある6桁の数値を何度か入力した。結果はどれも失敗。するとスマホに映し出された文字に変化があった。
『PINコードが正しくありません。あと1回の入力エラーで遠隔ロックが実施されます』
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