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なんの証拠もなく大谷を窃盗犯扱いしたことにより、五人が命をおとし、そして大谷は人生を棒に振ったのだ。バカだなあと結子は思う。犯人は大谷じゃないのに。
そもそも高木が悪いのだ。パントリーのパソコンの前にぽんと財布を置いておくから。たまたま高木が担当する階に用事があって、結子はその財布を見つけた。パントリーの扉は閉じられており、ほかには誰もいなかった。結子には子どもの頃から窃盗癖があり、友達の持ち物を盗んだり、万引きしたりと、それまで何度も手を染めてきた。
いつも思うのだ。
これきりにするから、あと一回だけ、もう一回だけ。
もう絶対にしないから、あと一回だけ──と。
大谷には悪いことをした。そこは反省している。けれど、高木も荒木も悪いではないか。証拠もなく大谷を疑ったのだから。
「あーあ……」
仕事、続けられるのかな。
大谷の事件があって以来、売室数が激減している。これでは今月の給料は雀の涙だ。
テーブルの上を片付けながら、ふと、無造作に置かれた小銭に目が留まる。
「…………」
百円くらいならいいよね。ばれないよね。
こんなところに置きっぱなしにしているから悪いのだ。
これきりにするから、あと一回だけ、もう一回だけ。
結子は自分にそう言い聞かせ、百円硬貨をポケットに滑り込ませた。
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