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全フロアを表示し、赤の部屋があれば安心できる。まだ、みんないるんだと少しだけほっとできる。最近では自分の上の階を担当している佐藤佳世と仲良くなった。だから、佐藤が出勤している日は彼女が担当している十四階が赤のままだとよりうれしい。
シーツのシワを伸ばしベッドを美しく整えて、結子はちらりと時計に目を走らせた。午後二時。清掃しなければならない部屋は、あと五部屋残っている。この調子だと終了時間は三時半になるだろうか。休んでいる暇などないが、自分の機嫌をとることも大切である。
結子は小走りに部屋を飛び出すと、エレベーター前にある自動販売機へと一直線に向かった。缶コーヒーを買って飲む。たったそれだけのことだが、昼にほんの五分だけ休憩をとった結子には至福のひとときだ。あらかじめポケットに忍ばせておいた五百円硬貨を取り出し、投入口へと差し入れる。冷えた缶コーヒーが落ちてくる音が静かなフロアにことさら大きく響いた。
プルタブを引きながらパントリーへ入り、パソコンを確認する。全フロアを表示すれば、まだどの階も真っ赤だった。ごくごくと喉を鳴らしながら缶コーヒーを飲み、結子はおかしいなとパソコンを覗きこむ。二時にもなれば、仕事の早い人はもうあらかたの部屋を清掃し終えている。ところが、今日に限ってはどの階も真っ赤で、誰も仕事を終えていない。
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