もうひとつのホーム

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もうひとつのホーム

ヴィクトリオの前から穏便に立ち去ることができた私たちは、とある場所にやって来た。 「いい住み込みの、長期のがあるかしら」 「ここら辺は短期募集のようですね」 「それに住み込みってわけでもないか……」 単発の、行って帰ってくればクエストクリアと言うもの。 まずは単発クエストを受けて、今日の宿代を稼いでおくべきかしら。貯金なら多少はある。ほとんどは領地のために使ったり、レナンのお給料にしたりだが。 その時、不意に響いた声にレナンと共にハッとする。 「おい、嬢ちゃん!ここは嬢ちゃんみたいのがくるところじゃねぇぜ?」 「遊んで欲しいなら俺たちが相手してやるよ。うひひ」 何、このテンプレ的なイタいゴロツキ二人組はっ!しかし、ここはそう言うやからも湧く場所でもある。むしろある意味名物。いや、迷物。 しかしながら……その迷物を好むわけでもない。 「あの……申し訳ないけど」 と、断ろうとした瞬間だった。 「おらぁっ!」 「てめぇら何してやがる!」 と、二人組のゴロツキが次々とガタイのいい男たちにフルボッコにされて、しまいには涙目で逃げ出していった。それもまた、ここの名物よね。いや、傑物である。 『二度とキア嬢ちゃんに手ェ出すんじゃねぇぞぉっっ!!!』 おぉ、みなさん逞しいですなぁと、呑気に眺めていれば。 「キアさぁ~んっっ!!大丈夫ですか!?」 私の元に3人の美少女たちが駆け寄ってきた。 1人目の美少女の名前はアリア。愛称はアリー。セミロングの黒髪に前髪はぱっつんに切りそろえている。瞳はグレーでかわいらしい顔立ちの美少女。 「私のキアに……指一本でも触れたら……許さない」 と、低血圧気味に告げた2人目の美少女の名前はジュリア。愛称はリア。深い藍色のウェーブロングヘアーに水色の瞳を持ち、青白い肌の儚げな美少女だ。 「キアっちお久ぁ~っ!今日はどんな依頼が好みかな!?」 と、元気いっぱいに聞いてくれた3人目の美少女はショコラ。スイートブラウンの髪を高い位置でツインテールにしており、吊り目がちなヘーゼルブラウンの瞳はぱっちり。勝ち気な印象とアクティヴでフレンドリーな印象を絶妙な加減で醸し出す美少女である。 「あぁ、実はいろいろあって長期の住み込みの仕事を探しているの」 と、言えば3人の美少女冒険者ギルドのアイドル的受付嬢である通称3人娘がぽかんと口を開ける。 そう、ここは冒険者ギルド。たとえ公爵家を追い出されても、私たちにはギルドと言うホームがある。 「えっと。遂に実家を出る意思を固めたってこと!?」 私の家の内情もよく知っているショコラは嬉しそうにそう告げる。 「う~ん。出るって言うか。追い出されて私、平民になっちゃった。ごめんね、特にリア」 と、リアを見やるとぱちくりと目を瞬いている。 「その、レナンは、私のパートナーとして引き続きお給金を渡すから」 そう付け加える。 「そ、そんなの……そんなのいい……!レナン、は、虫除け……!」 え、虫?虫の魔物?私、別に平気だけど。これでもリアとレナンの父親である敏腕冒険者の弟子ですから……!でも……リアったら気にしてくれてたの?優しいなぁ。 「レナンは、これからも私のパートナーでいい?それともリアと一緒にまた暮らす?」 そう聞けばレナンはふるふると首を横に振る。 「俺はキア姉のパートナーでいる。そのほうがリア姉の精神が安定するから」 「え、そうなの?」 特に仲の悪い姉弟ではない。むしろふたりでいるときはべったりなのだが。……そうか。リアが仕事に集中できるようにって気を遣っているのかも。弟のレナンがしっかり仕事をこなしていればリアも安心するだろうし。 「とにかく!これは叔父さまに伝えなきゃ」 と、ショコラ。 「あぁ、いいっていいって。私は仕事さえ見つかれば……」 「だぁめっ!キアっちのことはちゃんと報告するようにってパパからも言われてるんだからっ!!」 「あはは。相変わらず、ショコラのお父さまはお優しいから」 私のことを心配してくださるようだ。 「さぁ、いくよ!私、案内するから。ふたりは受付ヨロ!」 と、ショコラが言えば。 「まっかせて!」 「うむ……っ!」 と、アリーとリアが答え、私はレナンと共にショコラに腕を引っぱられて冒険者ギルドの2階、ギルマスの書斎へと通された。 メローディナ公爵家であったことをひととおり目の前のギルマス・エリオットさんに話せば案の定、エリオットさんは唖然としていた。 エリオットさんはアッシュブラウンの髪をきっちり後ろに整えて後ろに流している。そして、顔の片側に流してセットした前髪が爽やかイケメンオーラを増幅させている。ショコラの叔父であるエリオットさんはショコラと同じヘーゼルブラウンの瞳だがその眼差しは落ち着いた成人男性のものだ。 仕立てられたスーツに騎士のようなマントを身に着けソファーに腰掛けており、ショコラがその隣に座る。 そして私とレナンがその正面のソファーに腰掛けていた。 「メローディナ公爵家、か。前々から兄から話は聞いていたが」 エリオットさんの兄とは、もちろんショコラのお父君のことだ。 「仕事なら宛てはある。住み込みで長期募集のいい案件がある。私から先方に紹介状を書くよ」 「わぁ、ありがとうございます!」 早速見つかるなんて願ってもみないことだ。 「ただ、今日は泊まるところはあるのか?」 「あ、いえ。着の身着のままで追い出されたので。ギルドの宿坊をお借りできればと。レナンはリアのところに泊まる?」 と、聞いてみれば。 「むしろ、キア姉がリア姉の部屋に連れ込まれそう」 え?それは一体どう言う意味だろう? 「それじゃぁさ、ウチにおいでよ!」 と、ショコラ。 「そんな、悪いって!今の私は平民でっ」 「でも、私の親友でしょ?なら大丈夫!それにキアっちのことはパパも知ってるし!ウチのみんなは大歓迎!ねっ、いいでしょ?」 「……う、うん。ショコラにそこまで言われちゃったらお邪魔しようかな?」 「あとアリーとリアも呼ぶからレナンも一緒にねっ!」 「わかった、ショコラ姉」 そうレナンが頷けば、ひとまずショコラたちの仕事が終わるまでギルドのお仕事をしながら過ごし、お仕事が終わればショコラが呼んだ馬車でみんなでショコラのお家にお邪魔することになった。
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