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王城のパーティー
――――王城・パーティーホール
本日のパーティーでは王太子夫妻のお披露目が行われ、私とフィーの婚姻発表とフィーが臣下へとくだり爵位と領地を賜る発表がされる。
あと栄転も発表されるそうだが、それは私たちではなく他の王族の方のようだ。
フィーの今日の体調は万全だ。お兄さま、お姉さまのためにも万全を期してきたので。
だが、念のためフィーの負担にならないようにとパーティーホールでは、招待客が入る前に王室の方々が事前に席に着いているスタイルになったそうだ。
私たちのお近くの席には国王陛下、そして王太子殿下夫妻のお兄さま、お姉さまがいらっしゃる。
しかし王妃さまはいないようだ。あのバカ王子の席もないようでほっとひと安心だ。
――――それにしても。
「フィー、お姉さまが相変わらずきれいだわっ!」
まるで妖精のような輝きを放つお姉さまは、既に会場入りをしている招待客も思わず魅入ってしまっている。
「……ん?キアの方がきれいでかわいいよ」
フィーが私の顔を覗き込んでフォローしてくれる。しかし、その、さすがにお姉さまには及ばないわよ。
「ありがと。フィーは優しいわね」
「……真実だ」
……と、真顔で言われる。
いやいや、真顔?真顔なの……!?
「だ、ダメよ。まだまだ私にとってお姉さまは理想の女性なんだから」
お姉さまと並んでも私なんて目立たないし!
「理想……か。俺は理想ではないのか?姉上より」
え?……まさか嫉妬か?嫉妬してるの?
「心配しなくてもフィーは理想の旦那さまだから」
と、言ってあげれば。
「うん、ならいい」
何とか納得してくれたようだ。
フィーといつものように和やかに会話を楽しんでいると、不意に怒鳴り声がパーティーホールに響き渡り、ハッと顔を上げる。
「どう言う事だ!どうしてお前が!それに、妾子といるんだ!!」
そう、私たちに指を突き付けたのは第2王子・ヴィクトリオ。
せっかく静かだと思ったのに、何でアンタがいるのよ。まぁ、国王陛下の手前、アンタみたいに文句を言うことはないけれど……。
しかし……何故か首と手首、それと足に黒い輪っかを付けており、その輪っかには宝石が埋まっている。
新手のはやりものだろうか?しかしあの禍々しい宝石……なーんか見たことがあるような。でも多分、周りに危害を及ぼすものではない気がするのよね。その証拠か、魔力の多いフィーもそれらを面白そうに見ている。フィーはあれが何だかハッキリと分かっているのかしら。
そして次に、ヴィクトリオの横で顔を真っ赤にしているマリーアンナを見やる。
マリーアンナもヴィクトリオとお揃いの奇妙な輪っかのアクセサリーを身に着けている。
やっぱりはやっているの……?あれ。
「何で平民になったアンタがここにいるのよ!いつもいつも私の邪魔をして……!アンタのせいで、私はカシュミアを手に入れられなかったのよ!?」
そう叫び私をねめつける。いや……カシュミアの件は知らないのだけど。ひょっとして以前ブティックで騒いでいた件……?ならば私は無関係だし、それで手に入れられなかったのなら、それなブティックの在庫切れか、あなたが強盗発言をしたことによる自業自得だと思うのだけど。
それから、いつもいつも邪魔をするのはマリーアンナの方では……?
「そのブレスレットだって、元々私のものだわ!」
マリーアンナが指差したのは、私の手首に嵌まっている翡翠のブレスレットだ。本日もしっかりと装着してきたのだが……。私がフィーからもらった大切な宝物があなたのものだったことなんてないわよ。
そしてその主張には、さすがのフィーもへらへらと浮かべていた笑みを閉まっている。
「寄越しなさ……っ」
マリーアンナが私たちに近付こうとするのを、ジークさんとレナンが颯爽と制する。
「な、何よレナン!何でキアラの味方をするのよ!」
レナンが私の相棒だからだけど……?マリーアンナの味方をしなきゃならない理由はないと思うわよ……?
「そうだ!ジークだって、何故そんな病弱な妾子を庇う!私の元にくれば、お前は地位も名誉も何だって手に入る!」
いや、アンタに付いていったら地位も名誉も何もかも失う未来しか見えないわよ。しかしさすがにフィーのことまで悪く言われたら……っ。思わず席を立ち、言い返そうとした時だった。
「ヴィクトリオ、それからマリーアンナ妃、静粛に」
国王陛下の声が響いた。
マティアスお兄さまをそのまま成長させたような美形。それがラディーシア王国国王陛下だ。
「ですが父上!この女はひどい女なのです!それにジークだって私のものです!そこの妾子が私からジークを奪ったんだ!」
何て言う主張よ……!ジークさんが殺気を通り越して今すぐアンタの胴に槍を突き刺しそうなくらいの気迫よ!?武人じゃない貴族まで漏れなく震え上がってるけど!?よくも平気でそんなこと言えるわね……っ!?
「そうよ!何で平民ごときがこの場にいるのよ!それにこの女は平民のくせに、私のレナンとブレスレットまで奪ったの!そのドレスだって私のよ!」
さらにはドレスまで自分のものにする気か……。そしてさらに、ジークさんに続いてモノ扱いされたレナンはレナンで……しれっと暗器を構えていた。一見短刀に見える代物だが、あれは距離が離れていても、平気でマリーアンナの喉をかっ切ることのできる暗殺武器である。何つーもの懐に忍ばせてるのよ、レナンは……!あれをレナンに仕込んだのは、十中八九ルーク兄さんに違いない。
「静粛に。王である私の言葉を遮る権利がどこにある?」
そう淡々と仰る陛下には、凛とした覇気のようなものを感じる。さすがは陛下だわ。
「でも」
「だって」
度胸あるわよね。多分2人とも、今後ろを振り返えったらジークさんの覇気に失神すると思うのだが。
「従わぬのなら、近衛騎士に引きずってでも連れて来させる」
もしくは後ろ振り向けでもいいと思うが、国王陛下があぁ仰るのならば、止めることはない。
陛下に命じられ、ふたりは渋々用意されていた席に並ばされる。王族の席の中でも、末席に。
まぁ中心に立つ権利も資質も、あの2人にはないと思うが。
そして2人が渋々並んだところで、国王陛下が仕切り直す。
「みな、聞いて欲しい。今回は我が息子夫婦のお披露目の場に足を運んでくれたこと、大変感謝している。さらに今日は重大な発表がある。我が息子たちの婚姻と栄転の発表だ!」
その言葉にホールがざわつく。何故かヴィクトリオとマリーアンナが浮足立っているのは放っておこうか。
――――だが、その場に更なる騒動が舞い込んだ。
「んな……っ!?何であなたが生きているのよ!!」
ひと際甲高い女性の声が響き渡り、そしてひとびとが道を空けてその女性の顔が明らかになる。
ヴィクトリオによく似た金色のウェーブロングヘアーを結い上げ厚化粧をして、変わった貴金属を身に着けている。マリーアンナとヴィクトリオも身に着けていたものだ。
そして恨めし気にその青い瞳を細める。彼女こそが王妃。正妃・エスメラルダである。
――――が、そんな彼女の言葉にも国王陛下は毅然として接する。
「それはどう言う意味だ?今は重大な発表である。口を慎め」
「何ですって!?あなたは、死んだはずじゃない!私の祖国の聖国に滅ぼされて、ヴィクトリオは聖国の王太子になるのよ!?何であなたが生きているの!!」
え?王妃は一体、何を言っているのだろう?
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