キャルロット公爵家

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キャルロット公爵家

――――メローディナ公爵家も歴史だけはあるから大きいが、ここはここで別格ね。 メローディナ公爵家よりも歴史が古く、そして国内きっての大富豪とも言われるもうひとつの公爵家……それは。 「ようこそ~っ!キャルロット公爵家へ~っ!」 馬車から降り腕を大きく広げながらくるりんと回れば、ショコラのスイートブラウンのツインテールが優雅に靡く。そしてその声を聞いてかキャルロット公爵邸の扉が大きく開く。 「よくぞ来た!キアラよ!」 そうショコラによく似た吊り目のヘーゼルブラウンの瞳の男性が叫ぶ。ショコラのぱっちりとしたかわいらしい目の形とは対照的に、彼の瞳は切れ長で髪は異母弟であるギルマスと同じアッシュブラウンだ。端正な顔立ちのイケメンなのだが、いかんせん服の趣味が悪い。彼はまるで吸血鬼のような黒いマントを屋敷の中でも欠かさないのだ。 そして態度はでかいが結構懐の大きいとてもユーモラスな方。趣味が悪い……と言うのもある意味ユーモラスと見ることもできるのだ。 「パパっ!今日は友だちと、レナンも一緒よ?」 と、ショコラにパパと呼ばれた美男はうむ、と頷く。 「よいだろう!ショコラが招くのなら断りはしない!」 「きゃっ!パパ懐が大きくてステキ!」 相変わらずのテンションの父娘。この状況にツッコミが来ない……と言うことは、多分キャルロット公爵家のご子息は領地視察などで現在屋敷にいないのだろう。 そんなカオス状態の屋敷の執事長は……と思ったが、これもいつものことなので、はぁ……と溜息をついている。 全く、この父娘は。けれどご一緒すると何だか元気がでるのよね。 早速私たち女子組はショコラのお部屋へお邪魔し、レナンはショコラに別途部屋をあてがってもらっていた。 ひと通り仕度を整えれば本日はショコラの父君であるキャルロット公爵と畏れながらも晩餐を共にすることになった。 「さて、キアラ。大体のことは弟から聞いているぞ?なに、心配はいらん。メローディナ公爵家を追い出されたのならウチにくればいい」 と、キャルロット公爵。 「そうだよ!私、キアっちと姉妹になりたいっ!」 続いてショコラまで。 「そこまで言っていただけるなんて私は幸せ者ですね」 「ほう。それは我々キャルロット公爵家に来ても良いということかな?」 「望んでいただけるのなら……。あ、長期のお仕事って、ひょっとしてキャルロット公爵家の使用人とかですか?」 それなら住み込みで仕事をできる。キャルロット公爵家の一員であるエリオットさまが早速紹介してくれたのもそうだったからだろうか? 「何を言う……!無論、養女になるのだ!」 「なるのだーっ!」 「え……うえええぇぇぇっっ!!?」 私は仮にも元公爵令嬢だと言うのにはしたなくも大声を出してしまった。 「……ちっ、ウチもぱぱに話を持って行ってたのに……っ」 と、リア。 リアのお家は父子家庭。リアとレナンのお父君は養父であるが3人家族で仲良く暮らしているのだ。 「リアまで……!ありがとう、嬉しいわ」 「それじゃぁ……ウチに……くる?」 「やだぁーっ!ウチ~~~っっ!」 と、現役公爵令嬢であるはずのショコラまで叫ぶ。 「ふむ、しかしだな。君の長期の仕事は我が公爵家の養女に入ってこそ、箔がつくのだ。因みに君が我が公爵家に入ってくれることで滞っていた公爵家の事業がばば~んと進むのだ!」 「え、そうなのですか?」 今でさえ大富豪で、資産もメローディナ公爵家の何倍……いや何十倍なんだと言うほどにあるだろうに……そんなキャルロット公爵家の事業が滞っている……?それなら、それはお金で解決できない相当な問題がたちはだかっているのよね。 むしろお金に頼らず人脈を築いて財産を大きくしてきたキャルロット公爵家だからだろう。メローディナ公爵家とは対称的ね。 その代わり、使うべきところで使うのだ。むやみやたらと散財はしない。 「そしてそれはゆくゆくはジュリアくん。君のお父君の仕事にもなる!」 「何と……っ!」 その事実を知りリアも驚いて目を見開く。リアはパパっ子だからなぁ……。 キャルロット公爵の事業と言うのが何のことなのかわからないが。まぁキャルロット公爵はメロンディナ公爵と違ってあほなことを突っ走ったりはしない。産まれながらの天才なのだ。 「で、どうする?キアラ」 「……そうですね。私のお仕事のためにもなるし、キャルロット公爵の事業の足しにもなるのならお受けします」 それだけキャルロット公爵には投資する価値がある! 「そうかっ!では決まりだな。執事長、3日以内に手続きを終わらせるように」 キャルロット公爵が言えばすぐさま執事長が駆け寄り一礼をして去っていく。 まぁ、できる仕事バージョンのキャルロット公爵の時は執事長も何の迷いなく動けるのだ。 「やた~っ!これでキアっちが私の姉妹~っ!領地視察に行ってるコンラート兄さんにも知らせなきゃ~っ!」 あぁやっぱりショコラのお兄さんは領地に行っていたか。 「そうだ、レナンのことなのですが……」 「もちろん。今まで通りキアラのビジネスパートナーとしてウチで受け入れよう。長期の仕事にも一緒に行くのだろう?ならば肩書きは……従者でどうかな?」 と、キャルロット公爵が問えば。 「はい、問題ありません」 と、レナンも即答する。メローディナ公爵相手だったらこうはいかない。キャルロット公爵だからこそ私も、姉のリアも異論は出さないのだ。 「あぁ、そうだ。キアラ」 「はい、公爵さま」 「キアラはウチの養女なのだから、ぱぱと呼ぶがよい!」 選択肢はそれしかないのだろうか……。いや、ショコラが呼ぶ分には断然かわいいと思うのだが。 「……お父さまでいいですか?」 と、恐る恐る申し出てみれば。 「うむ!かまわんっ!」 特にぱぱと言う呼称にはこだわりはなかったらしい。 ※※※ ショコラの部屋にお邪魔した私、リア、アリー。今夜はみんなでショコラのお部屋にお泊りすることになっている。 「それにしても何なのかしら、あの第2王子。冒険者ギルドにいてもめっちゃディスられてやんのっ!」 と、ショコラが口を尖らせる。 「まぁ、冒険者って王族だろうが貴族だろうが尊敬に値しないひとには容赦ないもんねー」 とアリー。 「ふん……私のキアを振った罪は、大罪」 「まぁまぁリア。落ち着いて」 リアは心底憤慨しているが、頭をなでなですると少し落ち着いたようだ。 「でも、聞いてよ。あのひと婚約破棄の時に何て言ったと思う?」 「なになに?気になる!」 と、アリーが顔を近づけて興味津々に聞いてくる。 「自分のことまた第1王子って言ったのよ」 『あぁ~……』 と、3人は呆れ顔で溜息をついた。 「正妃さまがそう仰ってるだけでしょ?」 と、アリー。 うんうん、と私も頷く。 第2王子殿下は正妃さまの御子。対する本来の第1王子殿下と第3王子殿下は側妃の御子だ。 正妃さまになかなか御子が産まれず、やむをえず側妃を迎えた。しかし側妃さまの御子・第1王子殿下がお生まれになって数年後、第2王子殿下と第3王子殿下が同じ年にお生まれになったのだ。 だが、第1王子殿下が産まれた後でも正妃である自分の御子が第1王子だと頑なに王妃が主張し、溜まらず国王陛下が離縁を申し出ると泣く泣く王妃さまは認めたと言うが。第2王子殿下本人が日々第1王子だと豪語している以上、本人は納得しておらず今でも自分の子が第1王子だと教え込んでいるらしい。 「本当に婚約破棄は秒読みだと思っていたけど。破棄してくれてよかった」 と、私が言うと……。 『ほんとね~』 と、他の3人も相槌をうってくれる。このままマリーアンナが愛人状態でバカ王子と結婚して仕事だけ押し付けられるなんてのはまっぴら。 「更にはあのバカ王子だけど公爵家を継ぐ気満々だったの。次期公爵閣下なんですって」 と、言うと。 「やだ、何それ……!あのバカ王子、公爵になりたいの?それとも王さまになりたいの?」 と、ショコラが苦笑する。 「どっちも嫌だわぁ~」 無論どちらになっても私が仕事を全部押し付けられるのだから。 「あのバカ王子が王になったら、国、亡びる」 と、リア。 全く以ってその通り。だから国王陛下は王太子に本来の第1王子殿下を指名している。尤も王妃さまはあのバカ王子こそが王太子なのだと私に口を酸っぱくして言ってきたが。 いくら側妃さまがこの世を去っているとはいえ王妃さまは言いたい放題。 よくもまぁ王さまも我慢してるわ。 「バカにはバカを、だねっ」 とショコラが言えば、私たちはきゃっきゃと爆笑しながら楽しい夜を過ごしたのだった。
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