住み込みのお仕事

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住み込みのお仕事

第3王子殿下の口から出た言葉は予想外のことだった。 き……妃……?それって、妻ってことよね。さらには王子妃よね!? 「あぁ、あの――――……それは期限付きの仮初め妃ということでしょうか?」 それなら、お父さまの仰る通り、私はキャルロット公爵家に入らなくてはならないかもね。平民落ちの私が、仮初めとはいえ王子妃になんてなろうものなら、身分不相応となって第3王子殿下の顔に傷がつく。 ぶっちゃけ言って、様々な事情で仮初めの妻を娶る貴族はいるっちゃいる。 しかし貴族ならば貴族の妻を娶るのが普通である。貴族で冒険者……なんてのは、結構珍しい。まぁ冒険者で貴族の妻になったお方をひとり知ってはいるものの、彼女だって元々は貴族のお姫さまである。 そう言った前例があるので、ギルマスも私が冒険者になることは止めなかったけどね。 ――――そんなこともあって、貴族……ましては王族が冒険者を妻にと言うのは、よほどの事情があると言うことか。例えば護衛を兼ねて……とか。 それならば、貴族出身な上に、キャルロット公爵家の養女となった冒険者の私は、彼にとってはとてもありがたい人材なのだろう。 しかしそれならばそもそもジークさまがいらっしゃるのではとも思う。ジークさまだけでは対応しきれない何かがあるとか……? 「いや……期限は永久だ」 え、永久……?期間限定じゃないの……? 「仮初めではなく、本当の、妃だ」 「は……はいいいいいぃぃぃぃぃぃ――――――っっ!!?」 え、何!?何この状況!どう言うこと!?ほ、本当の妃……? それじゃぁ長期と言うかずっとじゃないっ!! 「王子妃教育はほぼ終わっているな」 「あぁ、はい。最近はほぼ執務ばかりでしたから」 「そしてもちろん住み込み、一日三食、最低限の執務は手伝ってもらうが……それ以外は冒険者活動も自由!」 た、確かに長期どころか期間は永久!住み込みな上に一日三食食べられて自由冒険者活動付きだなんてものすっごい好条件よね……っ!?そして私の希望も全てかなうのだ。 「あとは……かわいいお嫁さんがかわいくただいまを言ってくれたら嬉しいな」 何てかわいいお願い――――っ!そしてそれは、あくまでも私が冒険者活動を終えて帰ってきた時用のシチュエーションであることが、私の本当にやりたいことを尊重してくれているようで……嬉しい。 「でも……何故、私なのでしょうか」 「君がいい……それだけだ」 にこりと微笑む第3王子殿下のお考えは……全く分かんない……!!! 「あと、そこの彼は……」 第3王子殿下はレナンを見やる。 「私の侍従を」 「……分かりました」 レナンは訝しがりながらも、キャルロット公爵公認の依頼なので素直に頷く。 まぁ、公爵家の使用人としての技能も身に付けているから、レナンならばこなせるだろうが……。 「ジーク、運んでくれるか」 「あぁ」 第3王子殿下の言葉にジークさまが応じると、ジークさまが颯爽と第3王子殿下の体を抱きかかえてそのまますぐ傍のベッドに寝かせる。 「あの……っ」 つい、ついて行ってみれば第3王子殿下がふわりと微笑む。 な、何だろう?一瞬どきっとした。 「俺は、ほとんどベッドからは出られない」 「それは……」 国では有名なことだ。産まれながらに病弱であること。 「それから……あまり足も動かないから」 「そう、だったのですか」 未来の王子妃として王城に脚を運んでも、第3王子殿下とはほぼ会えなかった。離宮に籠られていたと言うのもあるが、単純にヴィクトリオの母妃が、側妃の子である第3王子殿下を毛嫌いしていたからだ。だからこそ、故意に情報が与えられなかったのだ。その情報が王妃の耳に入れば、王妃は大激怒であろう。だから周りも口を固く閉じた。 しかし、そのヴィクトリオの元婚約者の私が、まさか第3王子殿下の妃となろうとは……。渡りに船よね。 キャルロット公爵家も、第3王子も、王妃やヴィクトリオとは距離を置く一派。第3王子殿下自体は王妃たちと敵対していないとはいえ……この方は王太子殿下の実の弟君なのだから。 「……こんな病弱な俺の妃は嫌だろうか」 ふと第3王子殿下がそう呟いた。 わ……私が考えこんでいたから……! 「俺はこんな調子だから。それにいずれは爵位と領地を賜り臣下に下る身だ。キアラは私が臣下に下ったら、私の側から離れていかないだろうか?」 「そんな、まさか!一緒に領地経営ができるなんて願ってもみないことです!以前は領地経営なども行っておりましたので、補佐は私にお任せください!」 「そうか、よかった……。もし君に断られたらこの束縛監禁調教全集に乗っている秘技を試さねばならぬところだった」 と、第3王子殿下が枕元に置いてあった書物をとった。 いや何つー本を枕元に!?てか束縛監禁調教って一体何をする気だったんだ、このひと。 まぁ、相手があのバカ王子なら少しは抵抗しただろうが。まぁあのバカ王子との婚約が決まった時は小さい頃だったし、あんなバカだとは思わなかったから。今、妃になれと言われたら国を出て冒険者として生きることを選ぶ。 だが、目の前のお方はとてもキレイで、優し気で。何故だろう?何だか放っておけない。それに……。 「(あのバカ王子に比べたら、天国!)」 「……キアラ……?」 あ、やばっ。つい本音が……っ! 「ふふ。よかった」 はい?あの、聞き間違いだろうか?ちょっくら呆然としているうちに第3王子殿下が再び話し出す。 「俺は少し休むから。後はジークに……」 「お加減が悪いのですか?」 「魔力酔い。体に不相応な、魔力が流れているから、少し起きているだけでも……辛い」 そんな……っ! そうか……病弱と言うのは、そもそもの原因は……魔力酔いだったのだ……っ。 「横になっていれば、大丈夫」 「それならいいですが……何とかならないのでしょうか」 冒険者として、そのような症状は聞いたことがある。しかし、身体に影響が出るほどの強い魔力酔いだなんて早々あるものじゃない。 師匠……レナンとリアのお父さまなら何か知っているだろうか。 「キアラは優しいね。やはりキアラを選んでよかった」 「……っ」 顔を合わせたのは初めてのはずなのに、どうしてかその優しい微笑みが脳裏に焼き付いて放れない。 「心配しないで、行っておいで」 第3王子殿下のすらりと細い指が、私の手に触れる。ほんの少しだけドキドキしてしまうのは、初対面で緊張していると言うわけでもないような。 何だかよく分からないが、第3王子殿下の優しさに、ふわふわしてしまいそうだ。 「その……」 本当に大丈夫だろうか。不安な気持ちを込めてジークさまを見やれば。 「フィーなら大丈夫だ。まずは小娘、小僧。ついてこい」 小娘と小僧って。まぁ、ジークさまが大丈夫だと言うのなら、大丈夫なのだろうが。私たち、嫌われてないわよね?
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