Side K

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Side K

K美は自分が打ち込んだSNSメッセージを、しばらく見つめていた。 文面は完成している。「送信」ボタンを押せば、すぐにでも相手に届く。届いてしまう。 いつもなら、何も考えず、一連の流れのまま操作しているのに。 なぜが今回だけは、「送信」ボタンを押すのをためらっていた。 「なんか、これを送ったら、私、ダメになる気がする」 一昨日も彼女とはSNSメッセージでやり取りをした。他愛もない噂話や芸能界ゴシップ、推しバンドの情報交換、日常の不満や喜び。どうでもいいことばかりだけれど。 どうでもいいことを話す相手がいるというのは、案外幸せなこと。私はそれを実感として知っている。 学生の頃、私にはプライベートを話すような友人はいなかったから。 どうして、彼女と仲良くなったんだっけ。 クラスも違っていたし。部活も違った。家の方向だって逆。受験、かな。同じ大学を目指してると知って、話すようになった? その前から話してた気もするけど。 きっかけなんか思い出せないくらい、彼女とは親しくしてきた。友達って、そんな風に始まってるのかもしれない。 今の友人たちは、どうだろう。 なにかときっかけや打算があって、付き合いが始まった気がする。 「大人って不純~」 おどけて言ってみる。彼女が隣にいたら、吹き出すだろうなと思った。そういうの、まだ失くしたくないなと思った。 <A子って、△△ブランドのバッグ持ってたよね?今度の週末、貸してくれないかな。知り合いのパーティー行くのに、ちょうどいいのがなくてさー どうってことない、いつものSNSメッセージ。 そのつもりだったけれど。 「この間、"最後のお願い"とか言っちゃったよなー」 "一生のお願い"とか"最後のお願い"なんていうのは、人生100年時代には、空々しい響きしかない。少なくとも、現代は、日常的に命を脅かされているような時代じゃない。命が尽きるまであと何十年もあるのだ。その間に、今よりもっと深刻な事態に陥るかもしれない。 なんて説得力のかけらもない言葉。 じゃあ、なんで使うのか。 相手に言うことをきかせようっていう下心。 私はA子を従わせたいとは思っていない。でもこう頻繁に、こんなお願いをしていたら、そう思われても仕方ないかもしれない。 軽く扱ってるわけではない。頼りにしているだけなんだけど。 自分が打ち込んだ文面を眺める。 でも、パーティーには行きたい。手持ちのワンピースに合わせる適当なバッグがないのも事実。 私はしばらく考えてから、文面を打ち直した。 そして、ためらわず「送信」ボタンを押した。
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