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Side A
A子はじっとスマホの画面を睨んだ。
(大丈夫、私は間違えていない)
スマホ画面には、とあるSNSメッセージのスクショ画像が映し出されている。他愛もないスタンプと、短い文のやり取り。ひと月前の日付も写し込まれている。
何度も何度も、その日のやり取りを読み返す。
>ほんとまじ神!
<そーいうのいいから
>言っても足りないのー
<今回で最後だからね
>わかってる、最後のお願い聞いてくれてありがとー(ありがとうのスタンプ)
<もうないからね
>わかってるって、じゃあ明後日よろしく~
<本気だから
>(了解のスタンプ)
我ながら根暗なことをしているとは思う。
けど、10年来の付き合いの彼女には、これでもまだ甘いくらいだと思っている自分もいる。
(本気でやるなら、もっと徹底的にしないといけないんだけど)
彼女を打ち負かすというよりも、彼女の周囲と世間体を味方につけるためには。
これは私の甘さなのかしら。
彼女といて楽しい時もあった。引っ張ってもらって、あちこちいろんな世界を見せてもらった。世の中には、こんなキラキラした人たちがいるのか、と驚いたこともあった。反面、これほどまでに私の常識と違う考えの人たちがいるのかと、戸惑いを抱いたこともある。
彼女のいる世界。彼女が駆け込もうとする人々。
私のいる世界。私が落ち着く人々。
社会人になって、お互い違う場所で働き、付き合う人が変わり、さらに私たちの向き合い方が変わった。
いや、違うかな。
"学校"という閉鎖空間にある意味強制的にいたから、同じ方向を向いていると思い違いをしていただけだったんだ。
それでも、付き合いが長い分、お互いの許せる範囲や地雷ポイントもわかっているはずで。
だから。
(彼女とは、あと1回だけ)
そう決めていた。このスクショを撮った日に。
彼女の「お願い連絡」に返信をするのは。
そして。
彼女との付き合いを断つことを。
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