第3話

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第3話

 翌日は学校が休みだった。 今日は婚約者の屋敷を訪ねてデートに誘ってみよう。外出着用のクローゼットを開けると、吊り下げられている服を見つめた。 「どれがいいかな……よし、これにしよう」 僕がより一層魅力的に見えるのは、この服しかないだろう。早速、服を取り出すと着替えを始めた―― ダイニングルームへ行くと、既に両親と5歳年上の兄が席に着いていた。 「おはようございます、父上。それに母上に兄上」 「ああ、おはよう」 「おはよう、レオニー」 「おはよう」 父、母、それに兄が挨拶を返してくる。席に座ると、早速兄が声をかけてきた。 「今朝は姿を見せるのが遅かったな」 「すみません。服選びをしていたものですから」 「どこかへ出掛けるのか?」 父が尋ねてくる。 「はい、リューク伯爵家に行く予定です」 「リューク伯爵家……? まさか……」 母が首を傾げた。 「はい、婚約者に会いに行ってきます。最近、忙しくて中々会えませんでしたからね」 すると兄が眉間にシワを寄せた。 「……やめたほうがいいんじゃないか?」 「何故ですか?」 「いや、それは……」 「ゴホン!」 突然父が大きな咳払いをすると笑顔になった。 「そうかそうか、リューク伯爵家に行ってくるのか? よろしく伝えてれ。それでは食事にしようか?」 「は、はい……?」 兄と父の態度に軽い違和感を抱きつつ、皆で食事を始めた―― **** 「ええ!? レオニー様! 馬車を使われないのですか!?」 馬繋場に、御者の声が響き渡った。 「ああ、今日は乗馬をしたい気分だったからな。ほら、こんなに青空なんだ。馬車に乗るにはもったいない……そうは思わないか?」 僕は空を見上げた。 「確かにそうかもしれませんが……ですが、おやめ下さい! その服は乗馬には不向きです。それに、旦那さまから仰せつかっているのですよ。今日は馬車を出すようにと。 命令に背けば叱られてしまいます!」 涙目で訴えてくる御者。 「わ……分かったよ。父の命令なら仕方ない。馬車に乗ることにしよう」 「ありがとうございます! レオニー様!」 こうして、僕は馬車でリューク伯爵家へ向った―― **** 「えっ!? レ、レオニー様! 本日はいったいどうされたのですか!?」 リューク伯爵へ到着すると、僕を出迎えたフットマンが驚きの表情を浮かべた。 「どうされたって……婚約者に会いに来てはいけなかったのかい?」 何故そんなに怯えた表情を浮かべているのだろう? 「い、いえ。そ、そ、そういうわけではありませんが……」 フットマンは目を泳がせて、僕と視線を合わせようとしない。 「もしかして、いないのかい?」 「いいえ! シリル様は御在宅ではありますが……」 シリルとは僕の婚約者の名前だ。 「何だ、シリルはいるのか。だったら会わせてもらうよ。それでどこにいる?」 「え、えぇと……シリル様は……、ガゼボにいらっしゃいますが……」 「ガゼボだな、分かった」 踵を返すと、背後からフットマンの声が追いかけてきた。 「ですがシリル様はご友人たちと……!」 最後までフットマンの声を聞くこともなく、僕は足早にガゼボへ向かった――
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