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漆黒の城。豪奢な天井。魔法により揺らめく床の飾り。それらを従える城の王……魔王・レガスの眼前には3人の乙女がいた。
一人は金髪。見るからに高貴な生まれと察せられる風貌に、見事なドレスを身にまとっている。
もう一人は空色の髪。清楚な面立ちと神秘的な黄金の目が、彼女が特別な存在であることを物語っていた。
そして最後の一人は、黒髪。どこにでもいそうなありふれた面立ちだが、3人の中では一番健康そうだった。
風が吹く。
「魔王! 本当のところどうなんですの!?」
声をかけたのは金髪の乙女。彼女のまなざしは厳しく、激しい。
「先ほどから黙って……どうなさったのです? まさか、妻にしたいと言い放ったことは、嘘だとでも?」
空色の髪をなびかせた乙女は、忌々しそうにつぶやく。彼女は黒髪の少女を守るように立ち、大地の女神の力が封じられた杖を魔王に突きつけた。
魔王は黙っていた。人ではないとはっきりとわかる真紅の瞳に漆黒の髪。美男と言って差し支えない容貌の彼は、ただひたすらに玉座で黙していた。
王女と聖女。二人のタッグはすさまじく、恋する乙女のための道を切り開いた。ロエッタを無事、魔王の前まで連れだしたのだ。魔族一同にはロエッタが魔王の愛しい相手だと伝わっていたらしく、誰も手出しをしてこなかったのも大きい。
そればかりか、二人がロエッタを魔王に合わせるのだと言えば、協力する始末だった。
「魔王様にびしっと言ってあげてください! 俺たちの話を聞きやしない……」
「本当にお手数をおかけしてすみません。魔王様、あんな感じなんですけど、ロエッタ様にはベタ惚れでして……」
「人間側の事情とは魔王様もよく理解しているのですが、ロエッタ様を攫おうという発想ではなく、まさかの世界征服にいくのがあの方のアホで、愛されるところといいますか……」
「本当に。あともう少し、まだ間に合う、あと1回だけロエッタ様に会ったらって、何度も何度もプロポーズどころか告白まで延期されて……」
「恥ずかしくて告白を先延ばしなんて、アホの極みですわ」
次々と集まる証言。つまるところ。
聖女と王女が導き出した、ロエッタとの結婚のために魔王が暴走したのだという推測は事実だと証明されたも同然なのだ。
魔王は観念する他なかった。
「……ロエッタ。頼む。最後の、最後のチャンスをくれ。もう次があるなんて思わないから!」
黒髪の青年……魔王レガスが這いつくばりながらロエッタに言う。
ロエッタが尋ねた。
「……何をですか?」
「……告白、い、いいや! プロポーズ! プロポーズだ!」
たっぷりと黙った末にロエッタが頷いたか、どうか。
歴史書を紐解けば、こう記されている。
今日に至るまでの人族と魔族の交流は、勇者・ロエッタの行動がなければありえなかっただろう。
彼女は世界征服を宣言した魔王レガスを許しただけでなく、彼の謝罪を受け入れたのだ。
旅と苦難を共にした仲間である、聖女と王女の証言によれば、その様は二度と繰り返さぬと真に悔いた罪人のような有様であったという。
《おわり》
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