三回目のノック

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 わたしもそのスリルを味わうべく、実際にノックする以上の勢いで、少しオーバーアクション気味に拳を振り下ろした。  もちろん、絶妙なところで拳を止めるよう、細心の注意を払ってである。  だが、ここで予想外のアクシデントが起きる。 「わっ!」  何を思ったか、友人の一人がわたしをビビらせようと、大声をあげながらわたしの背中をドン! と押したのだ。  ええ!? 今、このタイミングで!? という、ぜんぜん空気読んでないバッドタイミングである。  無論、不意に押されたわたしは前のめりになり、想定していた以上に拳がドアへ近づいてしまう……次の瞬間、コン…と乾いたノック音がまたもトイレ内に鳴り響いた。 「あ……」  わたしも、そして、わたしを押した友人ともう一人の友達も、明らかに「ヤバっ…」という表情をその顔に浮かべる。 「はぁあいぃぃぃ…」  そんなわたし達の耳に、どこからかか細い女の子の声が聞こえる。  続いて、キィィィ…と木の軋む音をあげながら勝手にドアが開いたかと思うと、そこには黒いおかっぱ頭に、白いブラウスと赤いジャンパースカートを履いた、まさに〝花子さん〟的な恰好の女の子が不気味な笑みを湛えてポツンと立っている。  だが、想像を絶する恐怖のあまり、わたし達はその場で身体を硬直させ、逃げることも、また声をあげることすらもできない。  そうして蒼い顔を引き攣らせて固まるわたし達に対し…… 「わたし、花子さん……一緒に遊びましょう?」  一般的に言われている話とはむしろ真反対に、花子さん自らがその台詞を口にすると、愉悦の微笑を浮かべながら薄ら寒い声で語りかけた──。 (三回目のノック 了)
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