三回目のノック

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 普段はあまり人の来ない図工室や音楽室のある特別教室棟の、さらに使うものの少ない三階の女子トイレ。そこの三番目の個室がわたし達の学校での花子さんの棲家だ。 「──じゃ、いくよ?」  放課後、友達三人でそのトイレへと向かい、誰がするのか決めるジャンケンで負けたわたしは、背後で二人が見守る中、(くだん)の個室の前へと立つ。  コン……。  そして、まずは一回目のノックをおそるおそるタイル張りのトイレ内に響かせた。  まあ、三回目までにはまだ二回もある。まだまだ安全圏なのでこれは序の口だ。 「二回目、いくよ……」  コン……。  さらに二回目。三回目は叩かないので実質的にはこれが最後のノックだ。もう後がない。 「それじゃあ、三回目ね……」  背後の友人二人に今度も断りを入れると、わたしは右手の拳を大きく振りかぶる。  もちろん、ただのポーズだ。振り下ろすも叩くフリをするだけで、文字通り寸止め(・・・)にするのである。  ヤンキーじゃないが、ここでどれだけ叩く寸前までいけるのか? その根性を見せるのもこの〝花子さんゲーム〟の醍醐味だ。  もしも誤ってノックをしてしまったら……そこで現実でも人生がゲームオーバーになってしまう……。  もっとも、本当に三回ノックすれば花子さんが現れるのか? また、あの世へ引きずり込まれるというのも真実なのかどうかは当然疑わしい。  過去には三回ノックしてしまい、行方不明になった生徒がいたなんて話も聞いたりはするが……まあ、眉唾物と見ていいだろう。  だが、半分嘘だとわかっていても、半分は本当かもしれないという疑念を拭い去ることができない。  もしも本当に言われている通りなのだとしたら……そんな疑いが虚構と現実を紙一重に変え、やはり恐怖を抱かせずにはおれないのである。  だが反面、ジェットコースターやバンジージャンプなどの絶叫系アトラクションと同様に、そのスリルがまた堪らない快感であったりなんなもする……。
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