▶回想録◀真の独白

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 彼が伸ばしたその手を取る。 「……後日写真を持ってくるから、俺が指示した人物としばらく一緒にいて欲しい。しばらくと言っても庸助の体感で10分位でいい」  庸助は自分ここらから動けない、というのを表情で訴えてきたので俺は分かってるという風に手を上げていさめる。言葉を続けた。 「この辺りから動けないのは、弱い異形は思い入れのある一部分にしか存在出来ない性質があるからだ。でも庸助は弱いって言っても真ん中位のレベルだ。この通りの中を動くことは位はできるだろ? だから落とし物をしたから探して欲しいとでも言ってソイツをこの通りに留めておくんだ」  彼にはまだそれくらいの力は残っているはずだ。 「まあそう言うことなら……そんな簡単なことでええんか?」  庸助は何だか納得しない様子で首を傾げる。 「殺してあげる代わりに手伝って欲しいなんて言うから、人にバレたらあかんことの手伝いをさせるのかと思っとったんやけど。ここに遺体を持ってくるから食ってくれとか」 「なるほど遺体処理か、それは良いな。ヤグザが庸助の性質を知ってたら絶対スカウトする」  その発想はなかった。確かに便利かもしれない。言葉の綾のようだが俺は『死なせてあげる』と言ったのだ。『殺してあげる』とは少し意味が違う。庸助を殺すのは俺じゃない。敬だ。  幼い頃の予想に反して敬はいつまでも業界の秘密を知らないままだった。  敬の家の汚職。敬が業界の人間から良く思われていないこと、煙たがられていること。俺がこうやって耳に入ったのだ。敬も遅かれ早かれ自分の家が何をやってるか知るだろうと思った。  だからその時までもう少しだけ優越感に浸らせてくれと、そう願ったのにその日はなかなか来ない。だからもういいだろうと思った。  庸助は10分程度、人間を引き留めることを『そんな簡単なこと』と表現した。彼にとっては簡単なことだろうが、それが与える影響は格別だ。 第六感を持つ耐性のある人間は別として、普通の一般人は長く異形といると時間感覚が狂ってしまう。  彼らの止まってしまった時間に引きずり込まれるのだ。10分間一緒にいるだけで、正しい時間で数時間経っていたりする。  つまり俺が庸助に差し向けようとしてるのは、第六感を持たない一般人。先ほど悪い考えを思い付いた時、頭に浮かんでいたのはのことだ。  名前は忠。噂だが、彼は第六感を持っていない。もう7歳だというのに。それがこの業界の家系に生まれた人として何を意味するのか。答えは分かりきっている。実力主義の祓い屋業界は無情だ。  
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