▶回想録◀真の独白

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「……じゃあもう一つ注文をつけるか。10分程一緒にいる間、出来るだけ喋って相手に善人だと思われてほしい」  これはちょっとした仕返しとイタズラ。  忠を10分、いや正しい時間で数時間匿えばおそらく敬が探しに来て、庸助のことを見つけるだろう。きっと会話を試みる瞬間もなく殺す。庸助自身はそれで救われる。  その後、溺愛する弟から非難の言葉でも浴びて真実に気が付いたならラッキーだと思った。少なくとも何かおかしい、ということには気が付くだろう。  異形は人を狂わせる。人を喰らう。脳を吸う。しかし異形になりたくてなった者はいない。亡くなるとき、人を恨む気持ちが一瞬でもあればそこに付け入られる。今の前にいる庸助という人間のように。庸助はそのパターンではなかったようだが、死んでも問題にならないホームレスを理不尽に殺して異形にしているケースもある。  彼らを異形にし、それを自らが討伐することで政府から汚いお金を得ているのが裏辻家である。ただ……俺は顔を歪めた。 (俺がやっていることと何が違うのだろうか?)  裏辻家は積極的に異形を作り出し自作自演をしている。勿論悪だ。  しかし自分達の家は?俺の両親は?裏辻家が何をやっているか承知の上で止めることをしない。なぜなら結局のところ自分達にも利益が出るから。  異形がいる限り祓い屋は政府から必要とされる。莫大な金が得られて華族の称号のままでいれるのだ。  周囲の人間の性格の悪さや汚さに怒りを覚えながら、本当は分かっていた。  沈黙しているなら俺だって一緒なのだ。  ……時たま夢見ることがある。こんな業界を変えたいという願い。でも怖い。俺一人では絶対どうにもできない。次に考える。敬なら?  あまりにも身勝手すぎる夢想。俺の敬に対する感情になんと名前をつければ良いだろうか。嫉妬と憎悪と敵意___それ故生まれる信頼。それらの感情がぐちゃぐちゃに綯い交ぜられている。  敬のことは嫌いで嫌いで仕方ない。躓いて人生が堕ちればいいのにな、と思ってしまう。でも同時に、俺はあいつの光を信頼していてこの業界を変えてくれるのでは、とも思っている。それもまた事実でどちらも俺の中にある感情なのだ。 「たかだか10分の中で、善人だと植え付けるなんてムズすぎん?そんな人心掌握術は詐欺師じゃないと持っとらんって」 「喋り倒してお菓子でもあげておけばいけるだろ」 「お菓子って相手は子供なん?」 「まあそうだな、今七歳といった所か」 「俺子供好きやよ!任せといて!」  不安そうな表情は一転、胸を張る庸助はやたら瞳がキラキラしていた。子供好きというよりお前が子供なだけなんじゃないかと言いたくなる。 「頼むぜ」  数日後。後やるべきことは___  職員がハンドベルを鳴らしながら廊下を走っていく。それは最後の授業終了を知らせるチャイムだ。おざなりな挨拶をして先生が立ち去った後、放課後となった教室は途端に騒がしくなった。  澄ました横顔をぶら下げて帰り支度をしている優等生。その横顔を引っ張り叩きたくなる衝動を抑えて俺は顔にヘラリと笑みを貼り付けた。 (大丈夫、怪しまれなんてしないはず)  いつもの軽薄な調子を崩さないように。 「なあ敬、この後可愛い女中のいる喫茶店に行こうぜ!横浜の!」 「からくりじいさんの所に会いにいかないといけないがまあ1時間位なら……えっ横浜??」  遠いだろ、と明らかに顔に書いてる敬を無理やり連れ出す。 「今オッケーって言ったな! じゃあ行こうぜ!」 「待て絶対一時間じゃ帰って来れないだろそれ!?」 「蒸気機関の力を信じろって! 数秒前の景色がみるみるうちに米粒みたく小さくなるんだぞー!」 「お前っ、そんな遠くに行くならせめて数日前に言え!」 「安心しろよー俺は例え敬に予定があっても引きずり連れて行くからさ!」 「ちっとも安心できん!」
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