亀の恩返し

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「乙若様がご結婚をなされて、安心いたしました」 「地上から若い娘を連れて来れる機会など滅多にないのに、乙若様は今まで、ことごとくチャンスを潰してこられましたからな」 「乙若様はシャイでございますから、女性の目を見ることがお出来にならない」 「乙若様がご自分でお相手の目を見ながら薬を飲むことができたら、ご結婚相手を探すのに、我々はこんな苦労をせずに済みましたのに」 「本当に、長くかかりましたな。300年くらいはかかりましたかな」 「どうせ乙若様が使えないのなら、こんな薬があっても仕方ないと、玉手箱を断ったジャジャ馬娘に薬をやったら、まさかこのような結果になるとは、思いもよりませんでした」 「しかし、あの娘が落とし穴を掘った時には驚きましたな」 「あの娘が失恋して落ち込んでいた時、シャイではあるが心は優しい乙若様がお慰めになったら、恋が芽生えるのではないかと亀を遣いに出そうと準備をしていたのに」 「まさか、あの娘が自ら乗り込んでくるとは思いませんでしたな」 「あのようなやり方をする娘、乙若様のお相手としてどうなのかと審議になりましたが、乙若様があの娘を気に入っておりましたので、仕方ありますまい」 「今まで散々、乙若様が薬を無駄にしたせいで、あの娘にやった二度目の薬、あれが最後の1錠でございました」 「この機会は逃すことができないと考えた時、急にあれを思いついたのです」 「あの場で咄嗟にあの様な嘘を思いつかれたのですか」 「二回目もお付き合いがうまくいかなかったら海の中で暮らさなければいけないなど、まさか信じるとは」 「抗体がどうのこうの、それらしい話をしていたではありませんか」 「いやいや、突っ込まれれば、すぐにボロが出ていたことでしょう」 「疑わない娘で助かりました」 「どうせあの娘の経験値では、同じ人とやり直しても、うまくいかないことは予想できました」 「自ら別れを切り出すことも、織り込み済みだったのですか?」 「いやいや、そこまでは。しかし自ら決断したことで、ここで暮らす覚悟もできたことでしょう」 「あの薬は交際まではいけるが、その先は当人たち次第です。乙若様が薬を使ってあの娘と交際するよりも、あの娘が己の未熟さを知ってから改めて乙若様と出会うこととなり、結果として良かったですな」 「薬が残り2錠になった時は、乙若様のご結婚は諦めなければならないのかとも思いましたが、あと一回しかない最後のチャンスで、このような縁が結ばれ本当によろしゅうございました」
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