亀の恩返し

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海沿いの坂道を自転車で登る。 良いことがあった日ならビュンビュンと登れちゃうのに、今日みたいに落ち込んだ日はペダルが重い。 バイトの帰り道。 今日は片想い中のノリさんと話せなかった。 ノリさんは今月でバイトを辞めてしまう。 シフトがノリさんと一緒なのは、あと一回だけ。 あと一回で、告白しても唐突だと思われないくらいまで距離を縮められるかな? そんなの多分、無理。 私にそんなコミュ力があったら、とっくにもっと仲良くなれてる。 ノリさんのことを好きになったのは、バイトで一緒にレジに入った時。 好きになる前から、良い人だとは思ってたけど。 私がお客さんにお釣りを渡すのを忘れちゃって、お客さんがそのままお店の外に出ちゃった。 ドアが閉まる音を聞いた瞬間に、なぜかお釣りを渡していないことに気づいて「あ!」って声が出た。 「お釣り渡してない…」 って私が呟いた瞬間、ノリさんはダッシュでお店の外に出て、お客さんを呼び止めてた。 戻ってきてもらったお客さんにお釣りを渡して、私は平謝りした。 お客さんは「私も忘れてたから」なんて笑ってくれたけど、後で絶対にノリさんに叱られると思った。 その頃、ノリさんは私の教育係だったし。 でもノリさんは 「ちゃんとお金を渡せたから、お客さんは損しないで済んだし、お店の信頼は保てたし、ナルちゃんは今夜『やらかした…』って悩まなくて済んだし、俺は自分の素早い行動を自画自賛してるし、今みんなハッピーだね」 と言って笑顔を見せてくれた。 その瞬間、恋に堕ちた。
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