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「ミケ、それ寒くないの」
「平気」
「いや絶対寒いから。ほらカーディガン持ってこいって。まだ時間あるし俺待ってるからさ」
「いいよ別に。早く行こ」
12月の朝は程よく肌寒い。
ワイシャツにブレザーを羽織っただけのこれまた程よく涼しげな出立ちで迎えにきた千里の前へと姿を見せれば、芳しくない反応が返ってくる。
そんな千里をいつものようにあしらい、三毛門は学校へと向かう道を先導した。
「千里、遅い。じじいじゃねんだからもう少し早く歩いて」
「もう少し言葉選べよー。早く歩くと風当たって寒いじゃん」
「でもその分早く着く」
「うん、まあそりゃそうだ」
千里は相変わらず寒がりで、今日もコートとブレザーの下にベージュ色のカーディガンを着込んでフル装備だ。
そんな千里を連れて、三毛門は機嫌良く登校した。
「...あーまじさむ。ずっと秋でよかったのにさあ」
「日本には四季があるから」
「んなこと言われなくてもわかってんのよ。でも俺と同じ意見の人多いと思う」
「そっか」
「おい塩対応すぎだろ。なんだよ「そっか」って」
千里はいつもの如く三毛門の言動にツッコミを入れて、そんなに俺の言葉を拾いまくってて疲れないのだろうかと思う。
しかしそれだけ自分とちゃんと会話してくれてるんだと思えばどこか嬉しくなって、昇降口で上履きに履き替えて腰を屈めている千里の背後から無言で首元に手を当てがう。
「...っ、つめて...!おい、てめぇ...!」
「うわ、不良だ」
「...!...あほ」
千里は今は謎に更生してその言動にも細心の注意を払っているらしいが、三毛門からしてみればそれも綻び満載だ。
そんな千里を揶揄うのは日常茶飯事で、それは今日も同じだった。
「千里、髪赤い」
「...え、嘘。んなわけない、俺最近染めてないし」
「黒染めしてたじゃん」
「いやだから黒染めしかしてないって。また黒くしなおしたほうがいいかな...日当たるとやっぱ明るくなっちゃうよね」
千里の赤髪は夏休み限定のものだった。
高校に入る前は髪の色を抜いたり色々していたが、真面目になってしまった千里は「普通」を貫き通していて、三毛門が以前ねだりにねだりまくった結果、夏休みだけならと渋々染めてくれていた。
「俺好きだよ、千里の赤髪」
「でももうやんないもん。俺真面目な生徒だから」
「真面目な生徒は夏休みに髪染めないから」
「...ミケに言われなきゃやらなかったし」
「俺のいうことなんでも聞いちゃうのまじで笑えるよね」
「うっさいなぁ」
俺が千里に弱いように、千里も俺に弱い。
三毛門はそんな事実が嬉しくて、先ほど怒られたばかりなのにも関わらずまた冷えた手を千里の首元へと持っていって最終的にげんこつを食らった。
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