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「...寒いかも」
「ほら言わんこっちゃない。馬鹿だね、ほんと馬鹿。天気予報見てきましたか、三毛門クン?」
「....」
たしかに今夜は一段と冷えるから暖かい格好でお出かけくださいと朝のニュースでやっていた。
しかし寒さに耐性があると自負してるし大丈夫だろうとたかを括っていた三毛門は、煽り度マックスの千里の言葉に頬を膨らませる。
「おいイケメン、んな顔すんな。サマになってるのが腹立たしいだろ」
「...ふん」
「あーもう、ミケ拗ねちゃった」
こうすると千里は嬉しそうに笑いながら自分に構ってくれることを三毛門はよく知っている。
ぷいと顔を逸らせば、「ミケちゃんこっち向いて」なんて猫撫で声で話掛けられて、そのままぽんぽんと髪を撫でられる。
「...100万」
「...いや高すぎ。いつもぼったくりすぎなんだよ。俺ミケの飼い主だから撫でるの無料だし」
「100万」
「はいはい、じゃあ出世払いでね」
千里とはいつものように内容の薄い会話を交わして、そのまま昇降口をくぐる。
外はすでに日が落ちており、先程よりも凍てつく寒さの風が体に吹きつけて思わずぶるりと体を縮こませる。
「...はあ、ほんと。明日からはちゃんとあったかくしてくること。わかった?」
「...」
「おい、返事しろよ」
「わかった」
「よろしい」
千里は子供に対して言い聞かせるかのように優しい声色でそんなことを言うと、ちょっと鞄持っててとスクールバッグを寄越される。
「なに?俺鞄持ちしたくない。パシリじゃない」
「俺がミケにそんなこと頼むわけないじゃん。つかそんなことしたらぶん殴られるし」
冗談まじりに千里はそう言って笑って、おもむろに着ていたコートを脱ぎ始める。
一体なにをしてるのかとその様子をぼーっと眺めていれば、次にブレザーを脱ぎ、カーディガンを脱ぎと、あれよあれよというまに薄着になっていく。
「千里、ついに頭おかしくなっちゃったの」
「ついにってなんだ。違うから」
三毛門の突っ込みに千里は困ったように眉を下げて笑って、今し方脱いだばかりのカーディガンがおもむろに目の前に差し出される。
「...は?なに」
「なに、じゃねぇよ。着とけって言ってんの。ほら早く受け取って、俺今ワイシャツ一枚で瀕死だから。早くブレザーとコート着たい」
「....」
なんでこんな自分のためにここまでしてくれるんだろう。
今日もいつもと同じようにまたそんなことを考えながら、三毛門は千里からの「優しさとぬくもり」に素直に手を伸ばした。
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