ep5_飼い主の恋事情。

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あれから時間も経ち、憂鬱な体育の時間だ。 体調は時間を追うごとに悪化していて、これは見学しておいた方が賢明だろう。 しかし頭では分かっていても、まだ頑張れる、頑張らなきゃいけないと思ってしまう真面目な自分もいて、とりあえず限界まではやりきるぞと自身を鼓舞した。 「鷹野くん、俺たち2番目だって」 「え、ああうん。了解」 準備運動も終えて体育館の隅でぼんやりとしていれば、バスケの試合の順番が決まったらしく、同じチームの池井からそう声を掛けられる。 千里はひらりと手を挙げて応えて、自分の番が回って来るまでは体力を温存しておこうとその場に腰を下ろした。 ◇◇◇ 「智則(とものり)ナイッシュー!今日も絶好調だな」 「パス回してくれてありがと、このまま点稼ごう!」 「おう!」 池井を含めたチームのはつらつとしたやりとりを聞きながら、千里は敵側のゴール下で膝に手を付いてその様子を眺めていた。 何もしていないのに息が上がって、心なしか呼吸もしづらい。 一歩でも踏み出せば身体がふらついてしまいそうで、そろそろ限界が近いかもしれないと焦りから嫌な汗が額に滲んだ。 そんな中、再びシューズが床に擦れる音が体育館には響く。 敵チームのバスケ部員が今はボールを持っていて、そのままゴールを決めようとこちらに向かって来る。 そうなれば千里も動かざるを得ない。 「鷹野くん、そっち頼んだ!取ったら俺に回して!」 「...っ..、うん..」 池井からそんなことを言われても、今日ばかりは役に立てそうにない。 こんなことでチームに迷惑をかけるくらいなら最初から見学にしておいたほうがよかったかもしれない。 でも今そんなことを思ったところでもう試合は動き始めている。 頭では今動くことは無理だとわかっているが、千里はふらつく体を奮い立たせて敵の前に立ちはだかった。 その瞬間、敵はドリブルをやめて立ち止まるとそこからゴールは無理かと判断したのか、別のメンバーにボールをパスしようと勢いよく床にボールを弾ませる。 ───今取らないと。これはチャンスだ。 そう思い真っ向からボールを受け止めれば、それと同時に頭がぐらりとする。 妙に重く感じるボールはそのまま千里の腕から零れ落ちて、トントンと音を立てて床を転がった。 「...っ...、」 ワンバウンドしたボールすら受け取れないほどに今の俺は弱っているらしい。 他人事のようにそんなことを考えながら、気付けば千里は体育館の冷たい床に倒れ込むようにして膝をついていた。
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