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「え、ちょ...!鷹野くん!?大丈夫!?」
「せんせー、鷹野くんやばそう!一旦試合止める!」
「鷹野?おい大丈夫か」
周囲の慌ただしい声が遠く聞こえる。
やってしまったと思った時にはもう遅くて、千里はあれよあれよという間に保健室に連行されることとなった。
◇◇◇
「...千里..、!」
「あら三毛門くん?どうしたの」
「千里が倒れたって聞いて、その...」
「ああ。3組の鷹野くんね。彼なら今そっちのベットで休んでもらってるから。今日はもう早退させる予定よ」
「...、」
体育を終えて教室へと戻ってみれば千里の姿が見えなくて、バスケを選択しているクラスメイトから事情を聞いた。
三毛門は一体何事だと思いながら保健室へとやってきて、保険医の言葉のままに千里のいるベッドのほうへと足を向けた。
「...千里、」
「...は?ミケ?なにしてんの」
「それはこっちのセリフ。授業中倒れたって他の人たちから聞いて...」
「倒れたは大袈裟だって、ちょっとふらついただけだし」
ベッドで横になっている千里は突然姿を現した三毛門にも驚いた様子で目を見開くが、すぐにそんなそっけない反応を返してくる。
今日千里は様子がいつもと違っていたし、おそらく朝から体調が良くなかったんだろう。
しかしそれなら、何で素直に体調が良くないと言ってくれなかったんだ。
「つか飯は?午後も授業あんだからちゃんと食わなきゃだめだろ。俺のことはいいから教室戻れって」
「...俺のこととか今どうでもいいから。千里...」
「なに、そんな心配しなくていいって。柄にもないことすんなよ」
「...馬鹿。千里の馬鹿。」
「は?いやいや何で...」
俺は千里の唯一の「居場所」でありたい。
ちゃんと頼れる存在でいたい。
俺には遠慮なんかせず、甘えてほしい。
そんな想いをひた隠しにしたまま口をつくのはいつものように素直でない言葉で、本当はこんなことが言いたいわけじゃないのにと思いつつも抑え切ることもできない。
「...なんで言ってくれなかったわけ。俺には言ってくれたっていいじゃん。俺ってそんな頼りない?」
「...ミケ?...いや違う、俺はただミケに余計な心配かけたくなくて...」
「だったら最初から言えよ、頼れよ。俺千里にならいくらでも心配掛けられたっていい。俺の性格わかってるでしょ」
「....うん、...ごめん。そうだよな」
千里は三毛門の言葉に気まずそうに謝罪を口にする。
しかし今の千里はたしかに体調が悪くて、そんな病人相手にいつまでもこんなやり取りに付き合わせるのは酷だろう。
相手が自分の好きな人なら尚更だ。
「...千里、帰ろ。俺今日は千里の看病する」
「...は?いやいいって。まだ午後の授業残ってんだろ。俺は別に大丈夫だから...」
「千里はいつも大丈夫って言うけど、俺が大丈夫じゃない。千里のこと心配で授業も集中できない」
「...ええ...、ミケどんだけ俺のこと好きなんだよ...」
普段は滅多に見せることのない三毛門の心配する姿に、千里は一体何がどうなってるんだと瞠目しながらそんなことを口にする。
三毛門は驚いたように紡がれた千里の言葉を聞いて、布団の上に放り出されていた千里の手におもむろに自身の手を重ねて握り込んだ。
「...別にいいでしょ、千里は俺の飼い主なんだから」
「...、...なんかまた熱上がった気する...」
「...!早く帰ろう。鞄持ってくるからここで待ってて」
別の意味で上がってしまった熱に三毛門は焦ったように口早にそう言って保健室を出ていく。
その普段とは異なる慌ただしい後ろ姿を眺めて、千里は「ほんとに可愛いやつだな」と回らない頭でぼんやりと考えた。
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