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「なぁミケ、俺まじで大丈夫だって。一人で帰れるし...」
「だめ。無理。却下」
「...えぇ...」
学校を出る前にも三毛門の申し出を断るように何度かそんな言葉を口にするが、当の三毛門は断固として千里の意見を聞き入れる気はなさそうだ。
昇降口を出てしまえばもう、変なところで頑固な三毛門が折れることはないなと諦めて、素直にその隣を歩いた。
「帰ったらすぐベッドね」
「...うん、そうする。まじで今日しんどい」
「ほらやっぱりしんどいんじゃん。千里のくせになに強がってんの。馬鹿みたい」
「俺一応病人だぞ、少しくらい優しくしてくれてもいいだろ」
「だから看病するって言ってんじゃん」
「んん...」
優しいんだか優しくないんだかよくわからないが、三毛門が自分を本心から心配していることだけはわかる。
午後の授業を放棄させてしまったことに後ろめたさを感じるものの、千里がふらつかないようにといつもより体を密着させて腕を掴んでくれる三毛門に、「一生懸命で可愛いな」と場違いなことを考えた。
「はい、制服脱いで。すぐベッド」
「ああ、はいはい。脱ぎます脱ぎます」
家に着けばそのまま部屋へと連行されて、あれよあれよという間にベッドへと誘われる。
ベッドに横になればもう体調どうのこうのと心配しなくていいんだと安心できて、せっせと自身に布団を掛けてくれる世話焼きな三毛門をぼんやりと眺めた。
「なに見てんの」
「...いや、あんまこういうことなかったから。いつもそういうの俺の役目じゃん」
「俺だっていざとなればちゃんとできる。普段は千里があれこれやるから俺の出番がないだけ」
「それじゃあ俺いらねぇじゃんかよ...」
「は?いるに決まってんじゃん」
「....ああそう...決まってんのね」
今日の三毛門は妙に素直だ。
いつもなら「うん、いらないかもね」なんてツンツンとした言葉を返してきそうなものだが、愛らしい態度に千里の頬は無意識に緩んでしまう。
「...ニヤけてないで寝ろ」
「んー。...ミケ、ありがとな」
「別に」
三毛門お得意の「別に」が聞けたことで千里は満足し、まだ冷えている布団の中で体を縮こまらせた。
「ミケ」
「なに?」
「俺もう寝るけどミケも家帰るよな。鞄の中に鍵入ってるからさ、出る時だけ...」
「帰んない。言ったじゃん、看病するって」
「いやでも...やることなくて暇だろ」
「暇じゃない。千里がいる」
なんとなく尋ねたことに三毛門からは思いもよらぬ返しがあって、千里は小さく目を見開く。
...そうか、今日はデレの日なのか。
そんなことを考えながら、千里は照れ隠しをするかのように言葉を紡いだ。
「...ミケの中で俺ってそんなすげぇ存在なの。うれしー」
「いいから早く寝なって。俺そばにいるから」
「...うん。好き」
「...え...、」
「じゃあおやすみ、俺そろそろ限界...」
眠る直前に言われた「好き」という聞き捨てならない単語に、今度は三毛門が驚かされる。
どういう意味の好きかなんて、そんなの友人としてに決まってる。
しかしそれでも三毛門にとっては嬉しすぎるものでしかなくて、「俺も好きだよ」という想いを心の中だけで呟いた。
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