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「なぁ、これっぽっちなわけなくね?少なすぎなんだけど」
「で、でも...先週も本田くん達に渡したし...今もうお金なくて...」
「はぁ?そんなの言い訳になるかよ。俺最低でも1万は持ってこいっつったよな?金がないならパクってこいよ使えねぇなぁ」
昼休みに自販機で飲み物でも買い足そうと廊下を歩いていれば、なにやら不穏なやりとりが聞こえてくる。
このままスルーすることもできたが、正直それは性に合わない。
このまま見過ごすなんてことをしたら、後で後悔することになるのは必至だ。
千里は手に持っていたスマホをポケットへとしまうと、すぐにそのやりとりがされているであろう階段横のスペースを覗き込んだ。
「...まあいいや、とりあえず今ある分は俺らがもらうから。明日はちゃんと持ってこいよ、菅原クン?もし約束破ったらどうなるかわかってるっしょ」
「え、いや...そんな...、!」
服装の乱れた1年と思しき生徒3人に、恐怖に身体を震わせている怯えた様子の生徒1人。
これは言わずもがな、カツアゲの現場だろう。
そうとわかればと、千里はすぐにその生徒たちの前に姿を現した。
「そこで何してるんですか?」
「...っ、びくったぁ。...誰だお前」
背後から声を掛ければ、菅原と呼ばれた生徒を脅していた主犯格の本田は肩をびくりと震わせて振り返る。
そして千里の姿をその目がとらえた瞬間、訝しげに眉間に皺を寄せた。
「...本田くん、こいつ例のアレじゃね?」
「は、誰?」
「ほら、『西中の鷹野』と同姓同名の奴がいるって高校入った時話したじゃん」
「...あぁ。結局別人で無駄に焦らされたあれか」
「そうそう。こいつたしか3組の鷹野だよ」
───西中の鷹野、
そんなワードが飛び出て、千里は思わずどきりとする。
目の前の不良たちは気付いていないようだが、それは紛れもなく自分のことだ。
「...で、何してるんですか。カツアゲだとしたら先生に言いますけど」
「はあ?ちげーし。つかお前関係ないだろ、首突っ込んでくんなよめんどくせぇ」
「こんな現場見たらそういうわけにはいかないです」
「...チッ、弱そうなくせに無駄に正義感振り翳してうぜぇな。そんな俺らにボコられたい?」
ここから逃げ出すつもりもなければ、ボコられる気もさらさらない。
だけど今までのように喧嘩なんかでこの場を納めてしまったら、それこそ今までの努力が無駄になる。
千里は強い言葉を使って脅しのようなことを言ってくる本田を真っ向から見据え、その手握られている菅原の財布を取り返した。
そしてそのまま、呆気に取られた様子で千里を見つめていた菅原へとそれを手渡す。
「はいこれ。ここはいいから教室戻ってください」
「...、...!」
菅原は千里に対して何も言葉を発することはなかったが、顔を俯けたままその場を足早に立ち去った。
そして、それと同時に目の前からは深いため息とともに苛立ったような視線が向けられる。
「てめぇ...なに勝手なことしてくれてんの。俺らにそんなことして、どうなるかわかってんのか」
「...そもそもあれは君らの金じゃないでしょ。金が欲しいんならバイトでもすれば?高校生にもなってなに人から金巻き上げて楽しようとしてんだよ」
「...チッ...ふざけやがって...!」
本田は今まで自分が主導していたこの場を乱されたことに腹を立て、声を荒げながら拳を振り上げる。
それを見た千里は無意識に腕を構えるが、ここで応戦などするわけにはいかない。
そう考え、すぐに振り翳された拳を避けて体制を崩した本田の腕を掴んだ。
「...本田くん?俺今スマホで録音してるから。この会話も、菅原くんから金巻き上げようとしてんのもばっちり録ってる。もし先生に言ったら、そこにいる二人も含めてみんな退学かな」
「...っ...、は、」
「だから下手なことすんなよ。次菅原くんに絡んだら問答無用でこれ先生に聞かせるから」
「...てめぇ...!...おい、木本、若杉!こいつからスマホ奪え!」
千里の言葉に本田は焦ったように後ろに控えていた友人2人に声を掛ける。
いきなり命令された友人達は顔を見合わせるが、今し方「録音している」と言われたばかりなのに名前を出されてしまったことに慌てて、すぐに千里へと飛びかかった。
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