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「...こ、この...っ..!」
「大人しくスマホ渡せよ!」
本田の一声で大振りな動きで千里に殴りかかってくる二人の元に、千里はすぐに掴んでいた本田の腕を引いてその体を突き出す。
そうすれば木本と若杉はびくりと肩を揺らして動きを止めるので、驚いたように目を見開き呆然とこちらを見据えている三人を前にして、千里は小さくため息をついた。
「...俺からスマホ奪おうとか無理だから。これまで通り学校通いたきゃもう大人しくしとけ」
「...っ...お前、...まさか...」
「え、なんですか?それ以上言わないでください。俺はただの真面目な生徒なんで」
「...ッ...!」
おそらく勘付いたんだろう。
本田は口をあんぐりと開けたままぼそりとそんなことを言うので、それも制して千里は言葉を続ける。
「てことで、まじで菅原くんにもう関わんないで。そこんとこよろしく」
それだけ言えば目の前の三人はごくりと唾を飲んだ。
その様子を見届けた千里はやれやれと思いながらも、俺ジュース買いに来ただけなのにと呟いてその場を後にした。
◇◇◇
「...遅い」
「ごめんごめん、自販機混んでて」
「嘘。自販機何台あると思ってんの、混んでるとこ見たことない」
「...はは」
教室へと戻れば三毛門は訝しげな心境を隠すことなく千里に疑問をぶつける。
千里はここで「カツアゲの現場目撃したから救出してきた」なんてことを言ったら、なに面倒ごとに首突っ込んでんのと文句を言われてしまうだろう。
そんな光景を見越して、千里は曖昧に笑って誤魔化した。
「で、コーヒーは?」
「ああ。はいこれ、ちゃんと無糖のやつ」
「ありがと」
「俺も午後の小テストに備えてエナドリ買ってきたわ、やる気みなぎらせて頑張る!」
「やる気だけじゃテストはどうにもならないんじゃない」
「...うっせ、昨日ちゃんと勉強もしたから大丈夫だし」
三毛門とはそんな会話をして少しずつ日常に戻る。
とりあえずは菅原という生徒に例の三人がまた絡みにいかないかをこれから少し注視しよう。
そんなことを考えながら、千里はぼんやりと教室の窓から冬空を見上げた。
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